2005年 03月 23日
冬の追憶No.15 |
「第2話 期待」 静香は、創との待ち合わせの時間よりも1時間ほど早く、大学のキャンパス内に到着していた。入学手続き書類は、郵送でもよかったが、合格者の掲示も自分の目で確かめてみたかったし、大学構内の様子も知りたいと思っていた。彼女と同じような気持ちからなのか、発表を見に来ている親子連れや、学生の姿が見られた。
同じ頃、創は大学構内の駐車場に、車を止めていた。昨日のうちに頼んでおいた花束は、淡いピンク、オレンジ、黄系の花々で彩られいた。ほのかで甘い香りが、彼の心をいっそう
ときめかせていた。その反面「花束なんて、母さんの誕生日や母の日にしか贈ったことが
ないけど、なんて言いって渡そうか?キザなプレーボーイには、思われないだろうか?」などと、ためらいと恥じらいで頬を上気させた。
そして、自分が合格した時の歓喜に満ちた気持ちを、思い出していた。「静香さんも、夢がかなってうれしいだろうな。どんな笑顔に会えるのだろう。」彼は、受験番号を彼女のために、
記念に撮影しておいてあげようと思い、待ち合わせの時間よりも早くきたのだった。すでに
キャンパス内の掲示板の周りには、人だかりができていた。
「No.365」を探しながら、人の間をぬうようにゆっくりと歩いていた時、ベージュに白いタートルネックのセーターを、着た女性とぶっかった。その人は小脇に抱えていたバックを、落としてしまった。二人同時にかがみこむようにして、バッグを拾おうとして目があった。静香だった。「あっ、芳野さん」恥らうように微笑んだ。
二人、掲示板の前で
創 : 「静香さんも早く来ていたんだね。僕も記念に、君の受験番号を撮影しておいて
あげようと思って早く来たんだ。ところで、君の受験番号は何処?」
静香、指差しながら
静香: 「あの~、あそこです。右から10番目、上から7段目です。」
創、花束を差し出し照れながら、
創 : 「静香さん、前に行こう。あの前で立ってにっこり笑ってみて。あ、そうだ。その前に
これを渡さなくちゃ。合格おめでとう。母以外の女の人に花束なんて、初めてなん
だけど。キザなやつなんて思わないでね。そうじゃなくても、気恥ずかしいだから」
静香の憂いに満ちた瞳から、雫のような涙がこぼれ落ちる。
静香: 「綺麗で素敵な花束!ありがとうございます。嬉しいです。芳野さんて、やさしい
んですね。そんな、キザな人なんて思いません。」
静香恥じらいながら、掲示板の前へと進む。
創 : 「静香さん、笑って。感激して泣いた後に笑って言うのは、無理かもしれないけど。
なんだか泣き出しそうだよ。」
静香、微笑みながらポーズを取る。
創 : 「あ、わかった静香って名前が、いけないんだ。いっそのこと『にぎやか』って改名
したら。そしたら、大笑いしてもおかしくないじゃない。そうだ、これからは『にぎやか』
って呼ぼうかな~。」
静香、つられて笑いだす。
静香: 「芳野さんって、さすがカメラマンですね。人を笑わすの上手ですね。」
創、手際よくシャッターを切りながら、
創 : 「誉めてくれてありがとう。これでもプロだから。うん、その表情いいね。
そんな感じで。写真できたら、ご両親に見せてあげるといいよ。」
創 : 「さて合格記念写真も撮ったし、お腹がすいてこない。聞える?僕の腹の虫が、
このとおり泣いている」
創の飾らない自然な明るさに、静香の緊張もほぐれていった。
二人は学生時代に創がアルバイトを、していたという「ピッコリーナ」というイタリアンレスト
ランに、車で移動した。こじんまりとしていて家庭的な感じのする店だった。もうすでに彼が、予約をしてあったのか窓際の席へと通された。まもなくすると、店のオーナーらしい貫禄のある女性が、話し掛けてきた。
田中 : 「創、久し振りだね。暮れのOB会以来だね。どうした風の吹き回し?こんな綺麗
な人を、連れてきてさ。」
創 : 「静香さん、こちらは、この店の経営者の田中 美鈴さん。美鈴って雰囲気じゃ
ないいだけど・・・。僕が学生時代にアルバイトしていた店のオーナーなんだ。
今でも、大学時代の仲間が集まる時『ピッコリ―ナ』を利用しているんだ。家庭的
でおいしい物を食べさせてくれるんだよ。」
静香: 「初めまして。私、芳野さんの大学の後輩の遠山 静香です。どうぞよろしくお願い
します」
田中: 「創、どうしたんだい。初めてだね、あんたがこんなに可愛い人と食事に来る
なんて。それもさ、こんな都心から外れた店に、連れてくるなんて。嬉しいよ。」
田中: 「静香さんて言ったよね。この子はさ、この男前だろ。黙ってても目立つ。でもさ、
こいつのいいところは、そんなのひけらかさないだよ。バレンタインデーともなると、
大変だったよ。店にチョコレート持った女が、たくさんうろうろしてさ。この子、甘い
物嫌いだろ!その時期になると、『オーナー、調理場で働かせください』だよ。
それにさ男気があってさ、同僚からも慕われているんだよ。頼まれると『いや』って
言えないのさ」
創 : 「俺の話は、それくらいにしてさ。この可愛いお嬢さんに、おいしいものをたらふく
食べさせてあげて。○○大に今年、合格したお祝いなんだ」
田中: 「ごめんごめん、つい嬉しくなってさ。でも、さすが創だね。あんた、目が高いね」
昼時で、店も忙しくなってきたせいもあって、田中 美鈴は二人のテーブルの面倒をウェイター
に頼んでくれた。思わぬことで創の人柄に触れ、静香の心の扉に光が射していった。
静香は、春のようにおだやかな時の中に身を置き、幸せを感じていた。食事の後で、創がプレゼントしてくれた浄妙寺の写真も嬉しかった。父が亡くなって以来、写真など撮る心の余裕さえなかったから。
創は創で、あどけなさの残る面差しの中に、しっとりとした落ち着いた雰囲気を持つ静香に、ますます惹かれていく自分の気持ちに、気づきはじめていた。帰りは、電車で帰るという静香を、説き伏せ鎌倉の鶴ヶ丘八幡前まで、車で送った。少しでも長くいたかった。そしてもっと彼女のことを知りたかったし何でもしてあげたかった。
同じ頃、創は大学構内の駐車場に、車を止めていた。昨日のうちに頼んでおいた花束は、淡いピンク、オレンジ、黄系の花々で彩られいた。ほのかで甘い香りが、彼の心をいっそう
ときめかせていた。その反面「花束なんて、母さんの誕生日や母の日にしか贈ったことが
ないけど、なんて言いって渡そうか?キザなプレーボーイには、思われないだろうか?」などと、ためらいと恥じらいで頬を上気させた。
そして、自分が合格した時の歓喜に満ちた気持ちを、思い出していた。「静香さんも、夢がかなってうれしいだろうな。どんな笑顔に会えるのだろう。」彼は、受験番号を彼女のために、
記念に撮影しておいてあげようと思い、待ち合わせの時間よりも早くきたのだった。すでに
キャンパス内の掲示板の周りには、人だかりができていた。
「No.365」を探しながら、人の間をぬうようにゆっくりと歩いていた時、ベージュに白いタートルネックのセーターを、着た女性とぶっかった。その人は小脇に抱えていたバックを、落としてしまった。二人同時にかがみこむようにして、バッグを拾おうとして目があった。静香だった。「あっ、芳野さん」恥らうように微笑んだ。
二人、掲示板の前で
創 : 「静香さんも早く来ていたんだね。僕も記念に、君の受験番号を撮影しておいて
あげようと思って早く来たんだ。ところで、君の受験番号は何処?」
静香、指差しながら
静香: 「あの~、あそこです。右から10番目、上から7段目です。」
創、花束を差し出し照れながら、
創 : 「静香さん、前に行こう。あの前で立ってにっこり笑ってみて。あ、そうだ。その前に
これを渡さなくちゃ。合格おめでとう。母以外の女の人に花束なんて、初めてなん
だけど。キザなやつなんて思わないでね。そうじゃなくても、気恥ずかしいだから」
静香の憂いに満ちた瞳から、雫のような涙がこぼれ落ちる。
静香: 「綺麗で素敵な花束!ありがとうございます。嬉しいです。芳野さんて、やさしい
んですね。そんな、キザな人なんて思いません。」
創 : 「静香さん、笑って。感激して泣いた後に笑って言うのは、無理かもしれないけど。
なんだか泣き出しそうだよ。」
静香、微笑みながらポーズを取る。
創 : 「あ、わかった静香って名前が、いけないんだ。いっそのこと『にぎやか』って改名
したら。そしたら、大笑いしてもおかしくないじゃない。そうだ、これからは『にぎやか』
って呼ぼうかな~。」
静香、つられて笑いだす。
静香: 「芳野さんって、さすがカメラマンですね。人を笑わすの上手ですね。」
創、手際よくシャッターを切りながら、
創 : 「誉めてくれてありがとう。これでもプロだから。うん、その表情いいね。
そんな感じで。写真できたら、ご両親に見せてあげるといいよ。」
創 : 「さて合格記念写真も撮ったし、お腹がすいてこない。聞える?僕の腹の虫が、
このとおり泣いている」
創の飾らない自然な明るさに、静香の緊張もほぐれていった。
ランに、車で移動した。こじんまりとしていて家庭的な感じのする店だった。もうすでに彼が、予約をしてあったのか窓際の席へと通された。まもなくすると、店のオーナーらしい貫禄のある女性が、話し掛けてきた。
田中 : 「創、久し振りだね。暮れのOB会以来だね。どうした風の吹き回し?こんな綺麗
な人を、連れてきてさ。」
創 : 「静香さん、こちらは、この店の経営者の田中 美鈴さん。美鈴って雰囲気じゃ
ないいだけど・・・。僕が学生時代にアルバイトしていた店のオーナーなんだ。
今でも、大学時代の仲間が集まる時『ピッコリ―ナ』を利用しているんだ。家庭的
でおいしい物を食べさせてくれるんだよ。」
静香: 「初めまして。私、芳野さんの大学の後輩の遠山 静香です。どうぞよろしくお願い
します」
田中: 「創、どうしたんだい。初めてだね、あんたがこんなに可愛い人と食事に来る
なんて。それもさ、こんな都心から外れた店に、連れてくるなんて。嬉しいよ。」
田中: 「静香さんて言ったよね。この子はさ、この男前だろ。黙ってても目立つ。でもさ、
こいつのいいところは、そんなのひけらかさないだよ。バレンタインデーともなると、
大変だったよ。店にチョコレート持った女が、たくさんうろうろしてさ。この子、甘い
物嫌いだろ!その時期になると、『オーナー、調理場で働かせください』だよ。
それにさ男気があってさ、同僚からも慕われているんだよ。頼まれると『いや』って
言えないのさ」
創 : 「俺の話は、それくらいにしてさ。この可愛いお嬢さんに、おいしいものをたらふく
食べさせてあげて。○○大に今年、合格したお祝いなんだ」
田中: 「ごめんごめん、つい嬉しくなってさ。でも、さすが創だね。あんた、目が高いね」
昼時で、店も忙しくなってきたせいもあって、田中 美鈴は二人のテーブルの面倒をウェイター
に頼んでくれた。思わぬことで創の人柄に触れ、静香の心の扉に光が射していった。
静香は、春のようにおだやかな時の中に身を置き、幸せを感じていた。食事の後で、創がプレゼントしてくれた浄妙寺の写真も嬉しかった。父が亡くなって以来、写真など撮る心の余裕さえなかったから。
創は創で、あどけなさの残る面差しの中に、しっとりとした落ち着いた雰囲気を持つ静香に、ますます惹かれていく自分の気持ちに、気づきはじめていた。帰りは、電車で帰るという静香を、説き伏せ鎌倉の鶴ヶ丘八幡前まで、車で送った。少しでも長くいたかった。そしてもっと彼女のことを知りたかったし何でもしてあげたかった。
by jsby
| 2005-03-23 19:34
| 追憶 冬物語