2005年 10月 18日
冬の追憶No.21-6 |
「第4話 春の嵐」
静香と千晶は久し振りに、穏やかで幸せな午後のひとときを過ごしていた。いつの間にか、
夕陽が海をオレンジ色染め、汐が満ち始めてきた。寄せては返す波に、しだいに崩れていく砂山を見つめながら、静香がポツンとつぶやくように言った。
静香:「千晶、卒業式の後、家に泊まりに来ない?うちの母さん、卒業式には出られるの
だけど、その後の謝恩パーティには、仕事で出席できないだって。アレンジメント
講師の研修で大阪へ出張しなければいけないの」
千晶:「わあ!そういうのいいな。でも、静香のお母さんも大変だね。静香も、潤君と二人
じゃ淋しいものね。私、帰ったら母さんに聞いてみる。静香のとこだったら、うちの
母さんも安心するはずだし。今晩、電話するね。」
二人は若宮大路へと続く道を、鎌倉駅近くの交差点まで歩き、右と左に別れた。
千晶の家は大町、静香は反対側の小町にあるからだ。帰宅すると、朝出かけた時とは違う
リースがドアにかけられていた。「アイビィのこういうアレンジの仕方もいいな。」と静香は思った。母の響子は、何気ない野の花や観葉植物の魅力を引き出すのも上手だ。
「リースの丸い輪には,幸運を呼ぶという意味があるのよ」と母が言っていた。
静香は「たくさん、たくさん、幸運の女神が訪れてくれたらいいのに」と思いながら、ドアを
開けた。
期末試験の準備期間中に入ったためか、弟の潤はすでに帰宅していた。剣道の試合で
捻挫した左手には、まだ包帯が巻かれ、痛々しそうだ。めずらしく母の帰宅も早かった。
夕食を済ませると、二人とも早々に、それぞれの部屋へと引き上げていった。
母は3日後に控えた大阪のホテルでの研修にそなえ、課題が与えられているからと、言っていた。最近では、響子が制作したアレンジ作品が各部屋に置かれ、家族の目を和ませて
くれる。キッチンのちょっとした飾り棚にも、アイビィを使ったアレンジメントが置かれていた。
仕事で疲れているにもかかわらず、目を輝かせ花のことを語る母は、いきいきとして楽しそうだ。
そんな響子を見ているだけでも、家族は元気になれる。「やはり、お母さんは太陽みたいな人だな。」と、静香は思った。
二人がいなくなった空間に、静寂な時が訪れた。鎌倉に夜の帳(とばり)が下りるのは早い。夜8時頃ともなると、ほとんどの店が閉まり、街は暗闇に包まれる。昼間、観光客で賑わう若宮大路や小町通りの喧騒が嘘のように静かだ。その分、自然の音や香りが家の中まで伝わり、心を癒してくれる。
そんなゆったりとした時間の中で、今宵の静香は落ち着かないでいた。あれから、2年近い月日が流れた今、自分宛に書かれた手紙を受け取るのは、不思議な心境だった。彼女は、母と潤と自分のためにコーヒーを入れた。それを各部屋に届けると、早めにベッドに横になった。
静香と千晶は久し振りに、穏やかで幸せな午後のひとときを過ごしていた。いつの間にか、
夕陽が海をオレンジ色染め、汐が満ち始めてきた。寄せては返す波に、しだいに崩れていく砂山を見つめながら、静香がポツンとつぶやくように言った。
だけど、その後の謝恩パーティには、仕事で出席できないだって。アレンジメント
講師の研修で大阪へ出張しなければいけないの」
千晶:「わあ!そういうのいいな。でも、静香のお母さんも大変だね。静香も、潤君と二人
じゃ淋しいものね。私、帰ったら母さんに聞いてみる。静香のとこだったら、うちの
母さんも安心するはずだし。今晩、電話するね。」
二人は若宮大路へと続く道を、鎌倉駅近くの交差点まで歩き、右と左に別れた。
千晶の家は大町、静香は反対側の小町にあるからだ。帰宅すると、朝出かけた時とは違う
リースがドアにかけられていた。「アイビィのこういうアレンジの仕方もいいな。」と静香は思った。母の響子は、何気ない野の花や観葉植物の魅力を引き出すのも上手だ。
「リースの丸い輪には,幸運を呼ぶという意味があるのよ」と母が言っていた。
静香は「たくさん、たくさん、幸運の女神が訪れてくれたらいいのに」と思いながら、ドアを
開けた。
捻挫した左手には、まだ包帯が巻かれ、痛々しそうだ。めずらしく母の帰宅も早かった。
夕食を済ませると、二人とも早々に、それぞれの部屋へと引き上げていった。
母は3日後に控えた大阪のホテルでの研修にそなえ、課題が与えられているからと、言っていた。最近では、響子が制作したアレンジ作品が各部屋に置かれ、家族の目を和ませて
くれる。キッチンのちょっとした飾り棚にも、アイビィを使ったアレンジメントが置かれていた。
仕事で疲れているにもかかわらず、目を輝かせ花のことを語る母は、いきいきとして楽しそうだ。
そんな響子を見ているだけでも、家族は元気になれる。「やはり、お母さんは太陽みたいな人だな。」と、静香は思った。
そんなゆったりとした時間の中で、今宵の静香は落ち着かないでいた。あれから、2年近い月日が流れた今、自分宛に書かれた手紙を受け取るのは、不思議な心境だった。彼女は、母と潤と自分のためにコーヒーを入れた。それを各部屋に届けると、早めにベッドに横になった。
by jsby
| 2005-10-18 17:34
| 追憶 冬物語