2006年 01月 05日
冬の追憶No.22-4 |
「第5話 迷路」
響子が、ロビー中央に設置されている花の陰から芳野千尋の姿を眺め、若き日の自分と千尋を重ね合わせるのに、そんなに時間はかからなかった。ほんの数分の出来事に過ぎなかった。しかし彼女にとって、その時間はとてつもなく長く感じられた。
こんな時、人間の記憶の呼び出し機能はすばらしい。コンピュータでさえもかなわないかもしれない。記憶の中を縦横無尽に駆け回り、フラッシュバックさせる。あんなにしっかり記憶の扉に鍵をかけ、封印してしまったはずなのに・・・。
芳野 千尋は外国人らしい中年の男性と、何か話し込んでいる様子だった。ふと、彼は何処からかじっと見られているような気がして,後ろを振り返った。響子は不意をつかれてあわてた。彼女は気がつかれないように、その場を離れた。
響子はロビーを足早に歩き、奥のフロントへと向かった。
響子:「あの~」
フロントの女性:「お客様、何か?」
響子:「つかぬことを伺いますが、このホテルに芳野 千尋さんという方がお泊り
になっていませんでしょうか?」
フロントの女性:「お知り合いでしょうか?」
響子:「知人に似た人を見かけたものですから」
フロントの女性:「少々、お待ちください。お調べしてみますので」
フロントの女性:「お泊りではございませんねー。もしかしたら、このホテルにお食事にでも
いらしたのでは?エレベーターで8階まで上がりますと、中庭を取り囲む
ように、イタリアン・フレンチ・日本料理・中華料理のレストランがあります
ので」
響子:「ありがとうございます。私の見間違えかもしれません。お気になさらないでください。」
彼女は「今さら自分が何をしようとしているのか」と我に帰り、苦笑した。しかし、その放射線上の先で静香と創が出会ってしまっているとは予想だにしなかった。
木村は響子がなかなか現われないのを気にしながら、正面玄関側のロビーで待っていた。
ここはさっきのロビーとは打って変わって、黄色系の大きな絵画が飾られている。彼女は物珍しさも手伝って、その絵に見とれていた。
そこへ響子が現われた。さっきより顔色がいいので、木村はほっとした。
木村:「大丈夫そうね。さて、何食べたい?」
響子:「何でもいいわ。私、大阪は初めてなので、おまかせするわ」
木村:「ねえ、遠山さんって飲める口?」
響子:「ええ、少しだけなら」
木村:「大阪らしくもんじゃ焼きかお好み焼きと言いたいところだけど、それならば、
東京や横浜でも食べられるし、落ち着いて話もできないものね。私の知り合いが
堂島にね、和食のお店をオープンしたの」
木村:「それがね、奥さんは横浜の人でご主人は大阪の人。奥さんの方が私の友達なの。
知り合ったのは横浜の関内にある『菅井』というお店。お客さんと板長さんという間柄
から恋愛・結婚と発展したわけ。のれんわけという訳でもないんだけど。ようするに、
ご主人が修行あけになったので、故郷の大阪で和食の店を開店させようということに
なったのよ」
木村:「先週、その友達に電話したらね。『大阪に来るなら是非来てね』と言われて、実は
もう約束してしまったの。夜は高いのだけど、おまけしてくれるって言うから、そこで
いい?」
響子:「ええ、私は何でもいいわ」
木村:「じゃ、決まりね。ここから歩いてもそんなに遠くないから」
外に出ると、もう初春の陽はくれかかり夜のとばりが訪れようとしていた。響子は研修で来た大阪で、千尋に再び出会ってしまったことに一抹の不安を感じていた。
この物語を幅広く皆様にお読みいだだけたらと思い、下記2つの「ブログランキング」サイトに登録してみました。何か心に感じることがありましたら、クリックして
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響子が、ロビー中央に設置されている花の陰から芳野千尋の姿を眺め、若き日の自分と千尋を重ね合わせるのに、そんなに時間はかからなかった。ほんの数分の出来事に過ぎなかった。しかし彼女にとって、その時間はとてつもなく長く感じられた。
こんな時、人間の記憶の呼び出し機能はすばらしい。コンピュータでさえもかなわないかもしれない。記憶の中を縦横無尽に駆け回り、フラッシュバックさせる。あんなにしっかり記憶の扉に鍵をかけ、封印してしまったはずなのに・・・。
芳野 千尋は外国人らしい中年の男性と、何か話し込んでいる様子だった。ふと、彼は何処からかじっと見られているような気がして,後ろを振り返った。響子は不意をつかれてあわてた。彼女は気がつかれないように、その場を離れた。
響子:「あの~」
フロントの女性:「お客様、何か?」
響子:「つかぬことを伺いますが、このホテルに芳野 千尋さんという方がお泊り
になっていませんでしょうか?」
フロントの女性:「お知り合いでしょうか?」
響子:「知人に似た人を見かけたものですから」
フロントの女性:「少々、お待ちください。お調べしてみますので」
フロントの女性:「お泊りではございませんねー。もしかしたら、このホテルにお食事にでも
いらしたのでは?エレベーターで8階まで上がりますと、中庭を取り囲む
ように、イタリアン・フレンチ・日本料理・中華料理のレストランがあります
ので」
響子:「ありがとうございます。私の見間違えかもしれません。お気になさらないでください。」
木村は響子がなかなか現われないのを気にしながら、正面玄関側のロビーで待っていた。
ここはさっきのロビーとは打って変わって、黄色系の大きな絵画が飾られている。彼女は物珍しさも手伝って、その絵に見とれていた。
そこへ響子が現われた。さっきより顔色がいいので、木村はほっとした。
木村:「大丈夫そうね。さて、何食べたい?」
響子:「何でもいいわ。私、大阪は初めてなので、おまかせするわ」
木村:「ねえ、遠山さんって飲める口?」
響子:「ええ、少しだけなら」
東京や横浜でも食べられるし、落ち着いて話もできないものね。私の知り合いが
堂島にね、和食のお店をオープンしたの」
木村:「それがね、奥さんは横浜の人でご主人は大阪の人。奥さんの方が私の友達なの。
知り合ったのは横浜の関内にある『菅井』というお店。お客さんと板長さんという間柄
から恋愛・結婚と発展したわけ。のれんわけという訳でもないんだけど。ようするに、
ご主人が修行あけになったので、故郷の大阪で和食の店を開店させようということに
なったのよ」
木村:「先週、その友達に電話したらね。『大阪に来るなら是非来てね』と言われて、実は
もう約束してしまったの。夜は高いのだけど、おまけしてくれるって言うから、そこで
いい?」
響子:「ええ、私は何でもいいわ」
木村:「じゃ、決まりね。ここから歩いてもそんなに遠くないから」
外に出ると、もう初春の陽はくれかかり夜のとばりが訪れようとしていた。響子は研修で来た大阪で、千尋に再び出会ってしまったことに一抹の不安を感じていた。
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by jsby
| 2006-01-05 18:14
| 追憶 冬物語