2006年 01月 10日
冬の追憶No.22-7 |
「第5話 迷路」
今回の投稿は「冬の追憶No.21-6~7」の2ページに渡っています。振り返って、ご覧くだ
さい。
懐石料理のカウンター席というのは映画や演劇に例えるならば、言わば特等席のようなもの。カウンターの中の板前さんが役者で、お客様は観客。自分達のために作られる料理が、どのような食材で、どのような過程を経て作られるのかをつぶさに眺めて楽しむことができる。腕のいい板前さんのいる店ほど、カウンター席の予約から埋まる。
お店が繁盛するかどうかは「ドアを開けた瞬間」から決まると言われている。特別豪華でなくても居心地のいい悪いは外食を経験した人なら、なんなくその空気を感じ取ってしまう。
この「菅井」というお店は決して、安くはない。由香や響子のような年齢の女性が利用するには、むしろ高い方である。(昼で5,000円 夜は10.000円)
しかし、このお店を一度利用したお客様は毎回ではないにしても、年に一度や二度は自分へのご褒美として、また来てみたくなる。横浜の関内にある「菅井」も目立たない場所にある。
それなのに、連日予約で埋まるほど繁盛している。お店の評判は、お客様の口コミで広がった。言わば、お客様によってお店が育てられたと言ってもいい。勿論、お店のたゆまぬ努力が根底にあるからこそ、お客様から推奨されているのだが。
横浜の関内の「菅井」で修行した板前の山下健が、故郷の大阪で懐石料理のお店を開業したいと申し出た時、経営者夫妻はとても喜んでくれた。しかも大阪でも「菅井」という店名を使いたいと言うと、心よく了承してくれた。そればかりではない。このお店のお客様達に、大阪に出かけた時には「是非、立ち寄ってみて欲しい」とまで口添えしてくれた。
女性板前の松井めぐみが「熱いですから、気をつけてください」と言いながら、ふたりの前に「お吸い物」のお椀を配膳してくれた。乳白色の湯気の向こうに、お客様の幸せそうな笑顔を感じながら。色鮮やかな朱のお椀は、美しい衣装のようなもの。その中で丹精込めて作られた料理が、いっそう際立っている。
和食「菅井」
千代美:「かぶと車海老のお吸い物よ。くず粉でとろみをつけているの。身体が
暖まるわよ。春になったと言っても、大阪の夜はけっこう冷えるから。
由香、日本酒つけようか?」
由香 :「ええ、お願い」
その時、背後のドアが開き男性と女性のグループ客7人が店に入ってきた。
千代美は、その中の一人の
男性と親しそうに、挨拶を交わしている。以前にも「菅井」を
利用したことがある様子だった。
にわかに、店の中が活気づき千代美も由香達にばかり気を配れなくなってきた。
千代美:「ごめんね、由香」
由香 :「いいのよ。私たちは適当にやるから、気にしないで」
響子はお酒の酔いも手伝ってなのか、「人は過去に出会っ時、どう行動するのか」由香に聴いてみたい衝動にかられた。
響子:「もしもね。予期せぬ所で突然、過去に出会ってしまったら由香さんだったら、どう
されます?」
由香は、響子の唐突な質問に戸惑いながら
由香:「そうね。私の場合、偶然別れた夫と処かで出会ったら、やあ元気って気楽に声を
かけるわよ。それが夫以外の昔の恋人でもそうするかも。でも、なんでそんな質問
するの?もしかして、さっきホテルのロビーで昔の恋人を見かけたとか?」
香り箱(蟹) 柚子釜(ゆり根、まいたけ、牡蠣)
響子が由香の質問にうなずいていいものかどうか、躊躇していると、
由香:「気楽に声を掛けられないのは、いろいろな理由が想定されるわね」
由香:「1番目 別れた人を一方的にとても傷つけて、いやな思いをさせてしまった。
2番目 別れた人から、一方的にとても傷つけて、いやな思いをした。
3番目 周囲の反対にあって、泣く泣く別れた。
4番目 別れた人を別の相手に奪われたか、自分が別の相手を好きになった。
5番目 過去の思い出に決着がついていない。そして、自分の心の中にくすぶ
った火の粉があるのを見つけ気になった。
そんなところかな。このうちの中で当たっている項目はある?」
響子は、由香の簡単明瞭わかりやすい説明を、うなずきながら黙って聴いていた。
由香:「響子さん、迷路に入ったのかもね。迷路はいってみれば、迷い道。出口がないわけ
ではないのよ。その出口を自分の力で探しださなかったら、抜け出せないままかも
しれないわよ」
初春の宵、突然出会った過去に響子はたじろぎ、出口を求めて錯綜していた。
この物語を幅広く皆様にお読みいだだけたらと思い、下記2つの「ブログランキング」サイトに登録してみました。何か心に感じることがありましたら、クリックして
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さい。
懐石料理のカウンター席というのは映画や演劇に例えるならば、言わば特等席のようなもの。カウンターの中の板前さんが役者で、お客様は観客。自分達のために作られる料理が、どのような食材で、どのような過程を経て作られるのかをつぶさに眺めて楽しむことができる。腕のいい板前さんのいる店ほど、カウンター席の予約から埋まる。
お店が繁盛するかどうかは「ドアを開けた瞬間」から決まると言われている。特別豪華でなくても居心地のいい悪いは外食を経験した人なら、なんなくその空気を感じ取ってしまう。
この「菅井」というお店は決して、安くはない。由香や響子のような年齢の女性が利用するには、むしろ高い方である。(昼で5,000円 夜は10.000円)
それなのに、連日予約で埋まるほど繁盛している。お店の評判は、お客様の口コミで広がった。言わば、お客様によってお店が育てられたと言ってもいい。勿論、お店のたゆまぬ努力が根底にあるからこそ、お客様から推奨されているのだが。
横浜の関内の「菅井」で修行した板前の山下健が、故郷の大阪で懐石料理のお店を開業したいと申し出た時、経営者夫妻はとても喜んでくれた。しかも大阪でも「菅井」という店名を使いたいと言うと、心よく了承してくれた。そればかりではない。このお店のお客様達に、大阪に出かけた時には「是非、立ち寄ってみて欲しい」とまで口添えしてくれた。
女性板前の松井めぐみが「熱いですから、気をつけてください」と言いながら、ふたりの前に「お吸い物」のお椀を配膳してくれた。乳白色の湯気の向こうに、お客様の幸せそうな笑顔を感じながら。色鮮やかな朱のお椀は、美しい衣装のようなもの。その中で丹精込めて作られた料理が、いっそう際立っている。
和食「菅井」
千代美:「かぶと車海老のお吸い物よ。くず粉でとろみをつけているの。身体が
暖まるわよ。春になったと言っても、大阪の夜はけっこう冷えるから。
由香、日本酒つけようか?」
由香 :「ええ、お願い」
その時、背後のドアが開き男性と女性のグループ客7人が店に入ってきた。
千代美は、その中の一人の
男性と親しそうに、挨拶を交わしている。以前にも「菅井」を
利用したことがある様子だった。
にわかに、店の中が活気づき千代美も由香達にばかり気を配れなくなってきた。
千代美:「ごめんね、由香」
由香 :「いいのよ。私たちは適当にやるから、気にしないで」
響子はお酒の酔いも手伝ってなのか、「人は過去に出会っ時、どう行動するのか」由香に聴いてみたい衝動にかられた。
響子:「もしもね。予期せぬ所で突然、過去に出会ってしまったら由香さんだったら、どう
されます?」
由香は、響子の唐突な質問に戸惑いながら
由香:「そうね。私の場合、偶然別れた夫と処かで出会ったら、やあ元気って気楽に声を
かけるわよ。それが夫以外の昔の恋人でもそうするかも。でも、なんでそんな質問
するの?もしかして、さっきホテルのロビーで昔の恋人を見かけたとか?」
香り箱(蟹) 柚子釜(ゆり根、まいたけ、牡蠣)
響子が由香の質問にうなずいていいものかどうか、躊躇していると、
由香:「気楽に声を掛けられないのは、いろいろな理由が想定されるわね」
由香:「1番目 別れた人を一方的にとても傷つけて、いやな思いをさせてしまった。
2番目 別れた人から、一方的にとても傷つけて、いやな思いをした。
3番目 周囲の反対にあって、泣く泣く別れた。
4番目 別れた人を別の相手に奪われたか、自分が別の相手を好きになった。
5番目 過去の思い出に決着がついていない。そして、自分の心の中にくすぶ
った火の粉があるのを見つけ気になった。
そんなところかな。このうちの中で当たっている項目はある?」
響子は、由香の簡単明瞭わかりやすい説明を、うなずきながら黙って聴いていた。
由香:「響子さん、迷路に入ったのかもね。迷路はいってみれば、迷い道。出口がないわけ
ではないのよ。その出口を自分の力で探しださなかったら、抜け出せないままかも
しれないわよ」
初春の宵、突然出会った過去に響子はたじろぎ、出口を求めて錯綜していた。
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by jsby
| 2006-01-10 21:08
| 追憶 冬物語