2007年 01月 19日
冬の追憶No.23-35 |
「第6話 エニグマ変奏曲」
時は誰にでも平等に訪れる。物理的な時間は少しも変わらないのに、あっという間だったり、途方も無く長く感じられたりと、その時々の精神状態によって流れ方の速度が違うように感じられるから不思議である。その日の創もそんな一人だった。
「アルバイト採用の知らせを、静香に一刻も早く知らせてあげて喜ばせてあげたい」と気にかけつつ、仕事の切れ目が悪く、もどかし思いをしていた。終には、夜10時半をまわり、やっと連絡がつけられるような有様だった。彼のような仕事は事務作業と違って、撮影スタッフや
撮影対象者あってのものだから仕方がない。
創 :「もしもし、芳野ですけれど。こんな時間に話しても大丈夫?ひょっとして、もう寝て
いた?」
静香:「いえ、大丈夫です。なんとなく眠れなくて本を読んでいたところなので」
静香:「この間は私のアルバイトのことで、ありがとうございました。まだ、中島さんから
連絡がないのですけれど・・・」
創 :「実はね・・・。昼間、中島先輩からそのことで僕に連絡があってね」
静香:「やはり、駄目だったんでしょうか。私、全然自信ありませんでしたから。だから、
私に直接ではなくって、芳野さんに連絡されたのでは?」
創 :「『実は・・・』って言葉は実にいけないよな。悪いことを暗示させてしまうから。いや、
その逆。OKだって。採用されることになったよ。おめでとう。僕も嬉しくって、早く連絡
してあげたかったんだけど、仕事が長引いてしまって遅くなってしまった。ごめん」
創 :「あの時、中島先輩、午後からテレビ局の人が取材に来るからって急いで会社に戻っ
ていっただろ。静香さんの電話番号を聞くのを忘れてしまったって、僕に連絡してきた
んだ。それで、先輩からの伝言なんだけど、アルバイト雇用契約をしたいので、至急
連絡を取りたいそうなんだ。明日にでも、先輩からもらった名刺の電話番号に連絡して
もらえる」
静香:「はい、わかりました。でも、本当ですか?本当に?私が?まるで夢みたい。夢なら
醒めないで欲しいです」
創 :「本当の本当!なんなら、今夜はこのまま夢を見続けて、もう一度、明日の朝に連絡
してあげようか?」
静香:「いやだ。芳野さんたら。私、もう嬉しくって、どうお礼を言ったらいいのか。大学に通い
ながら、映画会社のアルバイトもできるなんて、みんな芳野さんのおかげです」
静香の明るく弾んだ声に、創の心も温かさで満ち溢れていった。大切に想う人のために、何かをしてあげることは、こんなにも幸せなものなのだと。
静香:「あっ、それから、父は母のW大学の卒業アルバムが見つかりました。やはり、父と母
それに芳野さんのお父さんは同じ学部でした。コピーを取ったので、アルバイト契約を
した後に、ちょっとお会いしてお話したいのですけれど」
創 :「いいよ、じゃアルバイト契約が済んだら、携帯に電話くれる?」
何となく気がせくような感じの創の電話の背後で、ざわついた人の声が聞こえて来た。
「芳野さん、まだ仕事中だったんだわ。明日でもよかったのに・・・」自分のために、一刻も
早く喜ばせてあげたいと思ってくれる心遣いが嬉しかった。
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時は誰にでも平等に訪れる。物理的な時間は少しも変わらないのに、あっという間だったり、途方も無く長く感じられたりと、その時々の精神状態によって流れ方の速度が違うように感じられるから不思議である。その日の創もそんな一人だった。
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いた?」
静香:「いえ、大丈夫です。なんとなく眠れなくて本を読んでいたところなので」
静香:「この間は私のアルバイトのことで、ありがとうございました。まだ、中島さんから
連絡がないのですけれど・・・」
静香:「やはり、駄目だったんでしょうか。私、全然自信ありませんでしたから。だから、
私に直接ではなくって、芳野さんに連絡されたのでは?」
創 :「『実は・・・』って言葉は実にいけないよな。悪いことを暗示させてしまうから。いや、
その逆。OKだって。採用されることになったよ。おめでとう。僕も嬉しくって、早く連絡
してあげたかったんだけど、仕事が長引いてしまって遅くなってしまった。ごめん」
創 :「あの時、中島先輩、午後からテレビ局の人が取材に来るからって急いで会社に戻っ
ていっただろ。静香さんの電話番号を聞くのを忘れてしまったって、僕に連絡してきた
んだ。それで、先輩からの伝言なんだけど、アルバイト雇用契約をしたいので、至急
連絡を取りたいそうなんだ。明日にでも、先輩からもらった名刺の電話番号に連絡して
もらえる」
静香:「はい、わかりました。でも、本当ですか?本当に?私が?まるで夢みたい。夢なら
醒めないで欲しいです」
創 :「本当の本当!なんなら、今夜はこのまま夢を見続けて、もう一度、明日の朝に連絡
してあげようか?」
静香:「いやだ。芳野さんたら。私、もう嬉しくって、どうお礼を言ったらいいのか。大学に通い
ながら、映画会社のアルバイトもできるなんて、みんな芳野さんのおかげです」
静香:「あっ、それから、父は母のW大学の卒業アルバムが見つかりました。やはり、父と母
それに芳野さんのお父さんは同じ学部でした。コピーを取ったので、アルバイト契約を
した後に、ちょっとお会いしてお話したいのですけれど」
創 :「いいよ、じゃアルバイト契約が済んだら、携帯に電話くれる?」
何となく気がせくような感じの創の電話の背後で、ざわついた人の声が聞こえて来た。
「芳野さん、まだ仕事中だったんだわ。明日でもよかったのに・・・」自分のために、一刻も
早く喜ばせてあげたいと思ってくれる心遣いが嬉しかった。
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by jsby
| 2007-01-19 18:02
| 追憶 冬物語