2007年 02月 20日
冬の追憶No.24-7 |
「第7話 若しも・・・」
今回の投稿は「冬の追憶No.24-6~7」も2稿に渡っています。振り返って、ご覧くだ
さい。
創に促されるように静香は本堂を訪ねた。
住職夫人:「あら、静香ちゃん。お父さんのお墓参り?この間、いらっしゃったばかりだ
というのに偉いわね」
静香 :「ええ、もうすぐ大学生だし。大学が始まると忙しくなって、なかなか来られない
と思うので」
住職夫人:「感心なお嬢さんね。もう大学生だなんて、お父様が生きていらしたら、どんなに
かお喜びになられたでしょうに。ところで、どうしたの?お線香を持ってくるのを
お忘れになったとか?」
静香 :「いぇ、そうじゃなくって。ここのお寺に田中実さんという人のお墓があるかどうか
調べて欲しいんですけれど」
住職夫人:「なんでまた?その人って、静香ちゃんのお知り合い?お友達のお父さんか
なんかなの?いつ頃亡くなられたか分かる?」
静香 :「いぇ、いつ頃なのかは分からないんですけれど・・・」
住職夫人:「ちょっと待ってね。檀家名簿で調べてみるから」
しばらくして、分厚い檀家名簿を手にした住職夫人が申し訳なさそうに奥座敷から出て来た。そして、何度も入念にページを繰りながら、
住職夫人:「田中性のお檀家さんって何人かはいるんだけど、亡くなった方で田中実さんと
いう方はいないわね。名前を聞き間違ってない?それとも何処か他のお寺さん
では?お役に立てなくって、ごめんなさいね」
静香:「いぇ、いいんです。調べてくださって、ありがとうございました。それと最近、この写真の男性が本堂を訪ねて来なかったでし
ょうか?」
住職夫人:「ちょっと見せて。あら、この人誰かに似ているわ。あっ、そうそう、思い出したわ。この間、静香ちゃんのお父さんのお墓を
訪ねて来られた人だわ。私がご案内させていただいたから、よく
覚えているわ」
静香 :「それ、いつ頃のことですか?」
住職夫人:「静香ちゃんとお母さんがお墓まいりにお見えになったのは、確か20日だったわ
よね。その2日前だったと思うわ。この間、花瓶を借りに来た時にお母さんにも、
そのことをお話したんだけど、何か聞いてない?」
静香 :「ええ。その人、白い花束を持っていました?」
住職夫人:「ええ。この写真の男性、静香ちゃんのお知り合い?」
静香 :「はい。知り合いのまた知り合いのような人です」
住職夫人:「?????」
静香 :「あの~、母にはこのこと内密にしておいてくださいませんか」
住職夫人:「ええ、わかりましたよ」
怪訝そうな住職夫人に多少の後ろめたさを感じながら、静香は本堂を後にした。本堂前の庭では創が心配そうな表情で待っていた。
創 :「どうだった?」
静香:「亡くなった方で田中実さんっていう男性のお墓はないそうです。それと、芳野さんの
お父さんの写真を住職さんの奥さんに見ていただいたら、父のお墓まいりにお見えに
なったとおっしゃっていました。住職さんの奥様がお墓まで、ご案内されたそうです」
創 :「やっぱり、そうだったのか。僕は母から話を聞いた時、そうじゃないかと思ったんだ。
でも、なんで父さんは母さんに田中実なんて、架空の名前を出したんだろう。人が嘘
を付く時って、どういう心境なんだと思う?」
静香:「嘘って、事実とは違った事を相手に伝えることですよね。でも、すべてが嘘ではない
と思うんです。天才的な詐欺師ならともかく、嘘の中にいくつかの真実が隠されている
ような気がします」
静香:「例えば、芳野さんのお父さんの場合、『大阪に出張に行って大学時代の同僚の
小林秀雄さんって人に会ったこと』・『父の葬儀に小林秀雄さんという男性が参列
したこと』・ 『その人から父のお墓が浄妙寺にあると聞いたこと』、この三つだけは
事実だと思うんです」
創 :「事実と異なることは、君のお父さんの名前を田中実と偽ったということだけか・・・」
静香:「嘘には3種類あると思うんです。
『人をだまそうとしてつく嘘』、『自分の
立場を守るためにつく嘘』・『相手を気遣
ってつく嘘』。どれも確かに真実とは違う
ことを言っているのですが、1番目には
悪意が感じられ、2番目には自己防衛が
感じられ、3番目には善意が感じられる
ような気がします」
静香:「何故だかわかりませんが、芳野さんのお父さんは私の父のことを家族に知られ
たくなかったのだと思います。嘘をついて
まで守りたいものがあったのかもしれません」
創 :「君は本当に思慮深くって、優しい人なんだね」
静香:「ところで、昨日言っていた私に見て欲しいものもって何でしょうか?」
創 :「ここのお寺が経営しているレストランにでも行って、食事をしながらでも見てもらおうと
思って持ってきたんだけど」
静香:「その前に、父のお墓参りをしてもいいでしょうか?」
創 :「勿論。差し支えなかったら、僕も一緒に君のお父さんのお墓参りをしてもかまわない
かな」
静香:「ありがとうございます。父もきっと喜ぶと思います」
遠山家のお墓は、喜泉庵から境内左手の坂道を登った山の中腹の一角にあった。墓前に
仏花を供え、手を合わすふたりは美しくとてもお似合いだった。お互いをいたわり合う瞳は慈愛に満ち溢れ、そこにそうしていることが自然にさえ思えるくらいだった。
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さい。
創に促されるように静香は本堂を訪ねた。
住職夫人:「あら、静香ちゃん。お父さんのお墓参り?この間、いらっしゃったばかりだ
というのに偉いわね」
静香 :「ええ、もうすぐ大学生だし。大学が始まると忙しくなって、なかなか来られない
と思うので」
住職夫人:「感心なお嬢さんね。もう大学生だなんて、お父様が生きていらしたら、どんなに
かお喜びになられたでしょうに。ところで、どうしたの?お線香を持ってくるのを
お忘れになったとか?」
調べて欲しいんですけれど」
住職夫人:「なんでまた?その人って、静香ちゃんのお知り合い?お友達のお父さんか
なんかなの?いつ頃亡くなられたか分かる?」
静香 :「いぇ、いつ頃なのかは分からないんですけれど・・・」
住職夫人:「ちょっと待ってね。檀家名簿で調べてみるから」
しばらくして、分厚い檀家名簿を手にした住職夫人が申し訳なさそうに奥座敷から出て来た。そして、何度も入念にページを繰りながら、
住職夫人:「田中性のお檀家さんって何人かはいるんだけど、亡くなった方で田中実さんと
いう方はいないわね。名前を聞き間違ってない?それとも何処か他のお寺さん
では?お役に立てなくって、ごめんなさいね」
静香:「いぇ、いいんです。調べてくださって、ありがとうございました。それと最近、この写真の男性が本堂を訪ねて来なかったでし
ょうか?」
住職夫人:「ちょっと見せて。あら、この人誰かに似ているわ。あっ、そうそう、思い出したわ。この間、静香ちゃんのお父さんのお墓を
訪ねて来られた人だわ。私がご案内させていただいたから、よく
覚えているわ」
静香 :「それ、いつ頃のことですか?」
住職夫人:「静香ちゃんとお母さんがお墓まいりにお見えになったのは、確か20日だったわ
よね。その2日前だったと思うわ。この間、花瓶を借りに来た時にお母さんにも、
そのことをお話したんだけど、何か聞いてない?」
静香 :「ええ。その人、白い花束を持っていました?」
住職夫人:「ええ。この写真の男性、静香ちゃんのお知り合い?」
静香 :「はい。知り合いのまた知り合いのような人です」
住職夫人:「?????」
静香 :「あの~、母にはこのこと内密にしておいてくださいませんか」
住職夫人:「ええ、わかりましたよ」
怪訝そうな住職夫人に多少の後ろめたさを感じながら、静香は本堂を後にした。本堂前の庭では創が心配そうな表情で待っていた。
創 :「どうだった?」
お父さんの写真を住職さんの奥さんに見ていただいたら、父のお墓まいりにお見えに
なったとおっしゃっていました。住職さんの奥様がお墓まで、ご案内されたそうです」
創 :「やっぱり、そうだったのか。僕は母から話を聞いた時、そうじゃないかと思ったんだ。
でも、なんで父さんは母さんに田中実なんて、架空の名前を出したんだろう。人が嘘
を付く時って、どういう心境なんだと思う?」
静香:「嘘って、事実とは違った事を相手に伝えることですよね。でも、すべてが嘘ではない
と思うんです。天才的な詐欺師ならともかく、嘘の中にいくつかの真実が隠されている
ような気がします」
静香:「例えば、芳野さんのお父さんの場合、『大阪に出張に行って大学時代の同僚の
小林秀雄さんって人に会ったこと』・『父の葬儀に小林秀雄さんという男性が参列
したこと』・ 『その人から父のお墓が浄妙寺にあると聞いたこと』、この三つだけは
事実だと思うんです」
創 :「事実と異なることは、君のお父さんの名前を田中実と偽ったということだけか・・・」
静香:「嘘には3種類あると思うんです。
『人をだまそうとしてつく嘘』、『自分の
立場を守るためにつく嘘』・『相手を気遣
ってつく嘘』。どれも確かに真実とは違う
ことを言っているのですが、1番目には
悪意が感じられ、2番目には自己防衛が
感じられ、3番目には善意が感じられる
ような気がします」
静香:「何故だかわかりませんが、芳野さんのお父さんは私の父のことを家族に知られ
たくなかったのだと思います。嘘をついて
まで守りたいものがあったのかもしれません」
創 :「君は本当に思慮深くって、優しい人なんだね」
静香:「ところで、昨日言っていた私に見て欲しいものもって何でしょうか?」
創 :「ここのお寺が経営しているレストランにでも行って、食事をしながらでも見てもらおうと
思って持ってきたんだけど」
静香:「その前に、父のお墓参りをしてもいいでしょうか?」
かな」
静香:「ありがとうございます。父もきっと喜ぶと思います」
遠山家のお墓は、喜泉庵から境内左手の坂道を登った山の中腹の一角にあった。墓前に
仏花を供え、手を合わすふたりは美しくとてもお似合いだった。お互いをいたわり合う瞳は慈愛に満ち溢れ、そこにそうしていることが自然にさえ思えるくらいだった。
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by jsby
| 2007-02-20 18:09
| 追憶 冬物語