2007年 05月 17日
冬の追憶No.24-16 |
「第7話 若しも・・・」
静香が入学式に出席していた頃、アメリカから日本に到着したばかりの『作』こと「ジョンソン・ケイデン(慶伝)」は、パレスサイドビルの中にあるM新聞社編集局社会部の桂木という
男性を訪ねていた。
彼はニューヨークで育ち、N社の新聞記者になっていたのだった。N社は日本のA新聞社と
提携しており、日本支局はA新聞社本社ビルの中ある。今回の出張は仕事でそこに来るの
が目的だったのだが、出発の前日になって上司よりある書類をM新聞社編集局社会部の
桂木に手渡すように頼まれたからだった。
それで成田空港からそのまま電車を乗り継ぎ、ここまで来たのだった。一緒に来たカメラマンとはメトロ東西線の大手町駅で別れ、先に予約したホテルに行ってもらうことにしたのだった。概して、物怖じしない性格のケイデン(慶伝)だが、さすがに初めて訪ねる日本に多少の緊張と不安を感じていた。
パレスサイドビル
あらかじめ充分に下調べてはして来たものの、距離と時間の感覚が全くつかめなかった。
約束した10時に間に合うのか、そればかりを考えていた。だから竹橋で乗り過ごし九段下
で降りてしまった時にはひやりとした。
応接室に入って来た桂木は、おやっと思った。受付から連絡があったのはジョンソン・ケイデン。長身のアメリカ人青年を想像していた。
しかし、彼を待っていたのは丹精な顔立ちの
日本人青年。そして礼儀正しく丁寧な日本語
で挨拶されたことに、驚きの表情を隠せない
でいた。
桂木:「初めまして、私が桂木です」
慶伝:「こちらこそ、初めまして。ジョンソン・ケイ
デンと申します」
桂木:「いゃあ~。失礼ですが、お名前からして青い目のアメリカ人青年が訪ねて来られる
とばかり思っていたものですから、ちょっと驚きました。あっそうか、ご両親のどちら
かが日本の方でアメリカの方とご結婚されたか、若しくは日系家系のご子息だったら
あり得ることですよね」
慶伝:「いぇ、そのどちらでもないです」
桂木:「どちらでもないとは?」
思ってもみなかったのか、桂木の質問に端正な顔立ちの青年の瞳に翳りがさしたような気がした。しかし、また柔和な表情に戻り、
慶伝:「私の両親、と言っても養父母ですが、アメリカ人牧師夫妻なんです。アメリカ名では
Kayden(ケイデン)ですが、和名では「慶伝」と書きます。喜びを伝えられる人に成長
するようにという意味を込めて、養父が名付けてくれました。将来、どちらの国でも通用
するようにという配慮からかもしれません」
ニューヨークの風景(2006年に友人が旅行した時の写真をお借りいたしました)
桂木は聞いてはいけないことを質問したようで、後悔していた。
桂木:「とても申し訳ないことをご質問して、失礼いたしました。職業柄、いつもの癖がつい
出てしまって・・・」
慶伝:「いぇ、お気になさらないでください。それどころか、私の名前に興味を持っていただ
いて、感謝しています。今朝、空港に着いてここまで来るまでの間、当たり前ですが、
周りは日本人ばかり。適度な緊張とともに何故か懐かしさを覚えたことは事実です。
きっと僕のルーツがこの国にあるせいかもしれません」
そう言いながら、ブリーフケースの中からA4版ぐらいの封筒を取り出し、
慶伝:「肝心の用事を先に済ませなくてはいけなかったのに、私の話ばかりして失礼しま
した。ボスのスミスから桂木さんに渡すようにと頼まれて来た書類です。中身を確認
してみてください」
桂木:「確かに、いつでもよかったのに。慶伝さんにも、お手数をかけてしまって申し訳ない。
ありがとうございました。ところで、日本にはいつまで滞在される予定ですか?」
慶伝:「2泊3日の予定なので、あさっての夜の飛行機で帰国する予定です」
桂木:「それはまたせわしいことで。ホテルは何処に宿泊されるご予定ですか?」
慶伝:「日本支社のスタッフが
予約してくれたのですが、築地
の聖路加病院近くにある『東京
新阪急ホテル築地』に宿泊する
予定です。そこからだと、日本
支社があるA新聞社まで5・6分
の距離だそうです」
東京新阪急ホテル築地
桂木:「今回はお一人で?」
慶伝:「同僚のカメラマンと一緒です。彼には先にホテルに行ってもらいました」
桂木:「そうでしたか。お礼に昼食でもと思ったのですが、お連れがいたのではそうもいき
ませんね」
慶伝:「お礼だなんて、気になさらないでください。私は上司から頼まれたものを桂木さんに
お届けしただけですから。では同僚が待っているので、これで失礼いたします」
そう言い終えると、さっそうと帰っていってしまった。皮肉にも慶伝が宿泊するホテルは創が
勤める雑誌社が入居している汐留シティセンタービルや母の美千代が経営する画廊とは目と
鼻の距離。23年以上にも及ぶ月日が嘘のようだ。
※手前右斜め下に見えるのが、朝日新聞東京本社ビル、左手中央付近に見えるタワー型
の高層ビルが、地上150mの聖路加タワー。このビルの32~38階に入居しているのが
東京新阪急ホテル築地です。汐留にあるカレッタ汐留の47階展望フロアーから撮影
いたしました)
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静香が入学式に出席していた頃、アメリカから日本に到着したばかりの『作』こと「ジョンソン・ケイデン(慶伝)」は、パレスサイドビルの中にあるM新聞社編集局社会部の桂木という
男性を訪ねていた。
彼はニューヨークで育ち、N社の新聞記者になっていたのだった。N社は日本のA新聞社と
提携しており、日本支局はA新聞社本社ビルの中ある。今回の出張は仕事でそこに来るの
が目的だったのだが、出発の前日になって上司よりある書類をM新聞社編集局社会部の
桂木に手渡すように頼まれたからだった。
それで成田空港からそのまま電車を乗り継ぎ、ここまで来たのだった。一緒に来たカメラマンとはメトロ東西線の大手町駅で別れ、先に予約したホテルに行ってもらうことにしたのだった。概して、物怖じしない性格のケイデン(慶伝)だが、さすがに初めて訪ねる日本に多少の緊張と不安を感じていた。
あらかじめ充分に下調べてはして来たものの、距離と時間の感覚が全くつかめなかった。
約束した10時に間に合うのか、そればかりを考えていた。だから竹橋で乗り過ごし九段下
で降りてしまった時にはひやりとした。
応接室に入って来た桂木は、おやっと思った。受付から連絡があったのはジョンソン・ケイデン。長身のアメリカ人青年を想像していた。
しかし、彼を待っていたのは丹精な顔立ちの
日本人青年。そして礼儀正しく丁寧な日本語
で挨拶されたことに、驚きの表情を隠せない
でいた。
桂木:「初めまして、私が桂木です」
慶伝:「こちらこそ、初めまして。ジョンソン・ケイ
デンと申します」
桂木:「いゃあ~。失礼ですが、お名前からして青い目のアメリカ人青年が訪ねて来られる
とばかり思っていたものですから、ちょっと驚きました。あっそうか、ご両親のどちら
かが日本の方でアメリカの方とご結婚されたか、若しくは日系家系のご子息だったら
あり得ることですよね」
慶伝:「いぇ、そのどちらでもないです」
桂木:「どちらでもないとは?」
思ってもみなかったのか、桂木の質問に端正な顔立ちの青年の瞳に翳りがさしたような気がした。しかし、また柔和な表情に戻り、
慶伝:「私の両親、と言っても養父母ですが、アメリカ人牧師夫妻なんです。アメリカ名では
Kayden(ケイデン)ですが、和名では「慶伝」と書きます。喜びを伝えられる人に成長
するようにという意味を込めて、養父が名付けてくれました。将来、どちらの国でも通用
するようにという配慮からかもしれません」
桂木は聞いてはいけないことを質問したようで、後悔していた。
桂木:「とても申し訳ないことをご質問して、失礼いたしました。職業柄、いつもの癖がつい
出てしまって・・・」
慶伝:「いぇ、お気になさらないでください。それどころか、私の名前に興味を持っていただ
いて、感謝しています。今朝、空港に着いてここまで来るまでの間、当たり前ですが、
周りは日本人ばかり。適度な緊張とともに何故か懐かしさを覚えたことは事実です。
きっと僕のルーツがこの国にあるせいかもしれません」
そう言いながら、ブリーフケースの中からA4版ぐらいの封筒を取り出し、
慶伝:「肝心の用事を先に済ませなくてはいけなかったのに、私の話ばかりして失礼しま
した。ボスのスミスから桂木さんに渡すようにと頼まれて来た書類です。中身を確認
してみてください」
桂木:「確かに、いつでもよかったのに。慶伝さんにも、お手数をかけてしまって申し訳ない。
ありがとうございました。ところで、日本にはいつまで滞在される予定ですか?」
慶伝:「2泊3日の予定なので、あさっての夜の飛行機で帰国する予定です」
桂木:「それはまたせわしいことで。ホテルは何処に宿泊されるご予定ですか?」
慶伝:「日本支社のスタッフが
予約してくれたのですが、築地
の聖路加病院近くにある『東京
新阪急ホテル築地』に宿泊する
予定です。そこからだと、日本
支社があるA新聞社まで5・6分
の距離だそうです」
東京新阪急ホテル築地
桂木:「今回はお一人で?」
慶伝:「同僚のカメラマンと一緒です。彼には先にホテルに行ってもらいました」
桂木:「そうでしたか。お礼に昼食でもと思ったのですが、お連れがいたのではそうもいき
ませんね」
慶伝:「お礼だなんて、気になさらないでください。私は上司から頼まれたものを桂木さんに
お届けしただけですから。では同僚が待っているので、これで失礼いたします」
そう言い終えると、さっそうと帰っていってしまった。皮肉にも慶伝が宿泊するホテルは創が
勤める雑誌社が入居している汐留シティセンタービルや母の美千代が経営する画廊とは目と
鼻の距離。23年以上にも及ぶ月日が嘘のようだ。
の高層ビルが、地上150mの聖路加タワー。このビルの32~38階に入居しているのが
東京新阪急ホテル築地です。汐留にあるカレッタ汐留の47階展望フロアーから撮影
いたしました)
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by jsby
| 2007-05-17 17:44
| 追憶 冬物語