2007年 08月 10日
冬の追憶No.24-29 |
「第7話 若しも・・・」
美沙もここぞとばかり、遠山誠と花村響子の間に生まれた子供のことを話題を出してみる
ことにした。
美沙:「実は・・・。私どもが調べた資料によれば、遠山誠氏と奥様との間にお生まれに
なったのは、男のお子さんで『遠山作』ちゃんと名付けられていました。しかし、
大変お気の毒なことに22年前、海で溺れてお亡くなりになったそうです。4歳半
の夏のことだったそうです。小林さんはそのことを、ご存知でしたか?」
小林:「いいえ、そんなことがあったなんて、全く知りませんでした。それで芳野が『その他
に、社会人のお子さんがいなかったか?』と聞き返したのか・・・。と言うことは、私と
大阪で会った時は彼もその子供が不慮の事故で亡くなったことを知らなかったこと
になりますね。」
小林の話を受け、美沙は彼らが過ごした26年前の世界へと誘い込むように、
美沙:「そういうことになりますね。ところで、先ほどお伺いしたお話によれば、おふたりの
ハンドルネーム『創』と『作』の名付け親は遠山誠氏の奥さんの響子さんでしたね。
生まれたお子さんが、たまたま男のお子さんだったので、親友の芳野氏のハンドル
ネームを取って『遠山作』と名付けたことになりますが・・・」
美沙:「私はまだ結婚をしたばかりですし、子供を産んだ経験もないのでよくわかりません
が、女性の場合、一時的にしても結婚前に付き合ったことがある男性の名前を自分
の子供に付けるでしょうか?そんなわざわざ誤解を招くようなことはしないような気が
するのですけれど・・・」
小林:「と言うことは、遠山誠が名付けたことになりますね」
おっ、乗って来たとばかり、美沙は心の中でパチンと指を鳴らした。つとめて冷静さを装って
いるものの、自分が仕掛けた罠に獲物が近付いてきたような気がして心が高揚していた。
美沙:「ハンドルネームにしろ、男性が自分の子供に他の男性の名前を付けるとしたら、
どんなケースが考えられるでしょうか?」
小林:「男性は常に強くたくましくありたいと思うものです。だから、素晴らしい能力を持ち
人間的にも魅力的な人を目標とすることで、その人物に自分を近づけようと努力を
します。しかし、自分がその理想像に近づけないと分かった時、今度は果たせなか
った夢を自分の子供、特に男の子に託そうとします」
小林:「結果、そうありたいという願望から、名前をあやかるのではないでしょうか。例えば、
僕らの年代ではプロ野球選手として人気があった荒木大輔にあやかって、男の子に
大輔という名前を付けるのが流行したことがあったように」
小林:「遠山誠の場合は、親友のハンドルネームを付けることで、芳野のことをいつまでも
覚えていたかったのか、彼のような生き方をしたかったのか、あるいはいつか再会
するようなことがあれば、彼に成長した子供の存在を気付いて欲しかったのかもしれ
ない」
美沙:「小林さんもそう思われますか。でも、何だかとても不自然に感じませんか?ふたり
はついに再会を果たすことがなかったのにもかかわらず、生きていたら社会人にな
っているかもしれない子供のことに、芳野氏も高い関心を示すなんて」
小林:「そう言われてみると、本当に奇妙ですね」
美沙:「これは若しかしたらの仮定の話ですけれど、私は逆の見方をしてみました。花村
響子さんと芳野氏は卒業したら結婚しようと約束をするほど愛し合っていた。ところが、
ふたりの間に何か深刻な事情や決定的な事件が起きて別れを決断しなければなら
なくなった」
美沙:「しかし、響子さんは芳野氏の子供を宿してしまっていた。彼は子供を諦めて、再出発
するように彼女を説得したが、響子さんはそれをかたくなに拒否した。困った芳野氏は
親友の遠山氏に相談をし、彼女を説得してくれるように頼んだ。しかし、遠山氏が説得
しても響子さんの気持ちは変ることはなかった」
美沙:「そして、芳野氏は遠山氏が密かに響子さんのことを愛していることを知っていた。
追い詰められた彼は遠山氏に子供のことを含めて響子さんの全てを受け入れて
くれるように、頼んだというような筋書きはいかがでしょうか?」
美沙:「つまり、芳野氏は遠山氏のカモフラージュ役ではなくて、その逆もあり得るのでは
と考えた訳です」
小林は美沙の推理の見事さに、あやうく手にしたグラスを落としそうになった。
小林:「えっ、そんなまさか!そんな馬鹿なことが・・・、何か、確証でも?」
彼はまるで妻に浮気現場を押さえられた夫のようにうろたえていた。背中を冷たい汗が流れ落ちるのがわかったくらいだ。美沙は動揺を隠せないでいる小林の様子を楽しむかのように、涼やかな声で笑いかけた。
美沙:「私、推理小説の読み過ぎでしょうか」
サイトに登録してみました。何か心に感じることがありましたら、クリックして
いただけますと嬉しく思います。またご意見・ご感想などを、ご気軽にコメント
していただけますと、励みにもなります。どうぞよろしくお願い致します。
「人気blogランキング 詩、小説部門」
美沙もここぞとばかり、遠山誠と花村響子の間に生まれた子供のことを話題を出してみる
ことにした。
美沙:「実は・・・。私どもが調べた資料によれば、遠山誠氏と奥様との間にお生まれに
なったのは、男のお子さんで『遠山作』ちゃんと名付けられていました。しかし、
大変お気の毒なことに22年前、海で溺れてお亡くなりになったそうです。4歳半
の夏のことだったそうです。小林さんはそのことを、ご存知でしたか?」
小林:「いいえ、そんなことがあったなんて、全く知りませんでした。それで芳野が『その他
に、社会人のお子さんがいなかったか?』と聞き返したのか・・・。と言うことは、私と
大阪で会った時は彼もその子供が不慮の事故で亡くなったことを知らなかったこと
になりますね。」
美沙:「そういうことになりますね。ところで、先ほどお伺いしたお話によれば、おふたりの
ハンドルネーム『創』と『作』の名付け親は遠山誠氏の奥さんの響子さんでしたね。
生まれたお子さんが、たまたま男のお子さんだったので、親友の芳野氏のハンドル
ネームを取って『遠山作』と名付けたことになりますが・・・」
美沙:「私はまだ結婚をしたばかりですし、子供を産んだ経験もないのでよくわかりません
が、女性の場合、一時的にしても結婚前に付き合ったことがある男性の名前を自分
の子供に付けるでしょうか?そんなわざわざ誤解を招くようなことはしないような気が
するのですけれど・・・」
小林:「と言うことは、遠山誠が名付けたことになりますね」
おっ、乗って来たとばかり、美沙は心の中でパチンと指を鳴らした。つとめて冷静さを装って
いるものの、自分が仕掛けた罠に獲物が近付いてきたような気がして心が高揚していた。
美沙:「ハンドルネームにしろ、男性が自分の子供に他の男性の名前を付けるとしたら、
どんなケースが考えられるでしょうか?」
人間的にも魅力的な人を目標とすることで、その人物に自分を近づけようと努力を
します。しかし、自分がその理想像に近づけないと分かった時、今度は果たせなか
った夢を自分の子供、特に男の子に託そうとします」
小林:「結果、そうありたいという願望から、名前をあやかるのではないでしょうか。例えば、
僕らの年代ではプロ野球選手として人気があった荒木大輔にあやかって、男の子に
大輔という名前を付けるのが流行したことがあったように」
小林:「遠山誠の場合は、親友のハンドルネームを付けることで、芳野のことをいつまでも
覚えていたかったのか、彼のような生き方をしたかったのか、あるいはいつか再会
するようなことがあれば、彼に成長した子供の存在を気付いて欲しかったのかもしれ
ない」
美沙:「小林さんもそう思われますか。でも、何だかとても不自然に感じませんか?ふたり
はついに再会を果たすことがなかったのにもかかわらず、生きていたら社会人にな
っているかもしれない子供のことに、芳野氏も高い関心を示すなんて」
小林:「そう言われてみると、本当に奇妙ですね」
美沙:「これは若しかしたらの仮定の話ですけれど、私は逆の見方をしてみました。花村
響子さんと芳野氏は卒業したら結婚しようと約束をするほど愛し合っていた。ところが、
ふたりの間に何か深刻な事情や決定的な事件が起きて別れを決断しなければなら
なくなった」
するように彼女を説得したが、響子さんはそれをかたくなに拒否した。困った芳野氏は
親友の遠山氏に相談をし、彼女を説得してくれるように頼んだ。しかし、遠山氏が説得
しても響子さんの気持ちは変ることはなかった」
美沙:「そして、芳野氏は遠山氏が密かに響子さんのことを愛していることを知っていた。
追い詰められた彼は遠山氏に子供のことを含めて響子さんの全てを受け入れて
くれるように、頼んだというような筋書きはいかがでしょうか?」
美沙:「つまり、芳野氏は遠山氏のカモフラージュ役ではなくて、その逆もあり得るのでは
と考えた訳です」
小林は美沙の推理の見事さに、あやうく手にしたグラスを落としそうになった。
小林:「えっ、そんなまさか!そんな馬鹿なことが・・・、何か、確証でも?」
彼はまるで妻に浮気現場を押さえられた夫のようにうろたえていた。背中を冷たい汗が流れ落ちるのがわかったくらいだ。美沙は動揺を隠せないでいる小林の様子を楽しむかのように、涼やかな声で笑いかけた。
美沙:「私、推理小説の読み過ぎでしょうか」
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by jsby
| 2007-08-10 19:30
| 追憶 冬物語