2005年 11月 25日
冬の追憶No.21-18 |
「第4話 春の嵐」
その夜、静香と創はほとんど同時に
お互いの声を感じ取った。
静香:「もしもし」
創 :「もしもし」
それは息の合った、アルトとバスの
ハーモニーのようだった。声を聞きたいと思った相手からの第一声、それ
だけでも人の心は和み楽しくさせる。
苦笑するお互いのしぐさまでもが、
見えるようだ。
創、嬉しそうに
創 :「元気だった?確か明日だったね。卒業、おめでとう」
静香:「覚えていてくださったのですか?ありがとうございます。K女学院の卒業式って、
例年4日と決まっているのですけれど、今年は3月3日に変更になったのです。
不思議と、氷雨が降って寒い日が多いのです。でも、明日は晴れるみたいで
ほっとしました。特に、母が着物着たいみたいなので」
創 :「女性の着物姿、なかなかいい
よね。そう言えば、僕の母も大学
の入学式に着てくれたっけ。
N大学の入学式って武道館で
行われるんだよ。まだ、案内状
来ない?母のこと、綺麗だなって
思って嬉しい反面、気恥ずかし
かった。わざと、少し距離を置
いて歩いたりして。ところで、
静香さんのお母さんって何て
名前?」
創は静香に悟られないように気遣いながら、母が渡してくれたメモを見ていた。メモには
「氏名:遠山 響子 住所:鎌倉市小町1-8-8 電話:0467-22-3546」と書かれている。
彼女に見えるわけではないのに、妙に緊張する自分がおかしかった。
それに反して、何も知らない静香の声は穏やかに透き通っている。
静香:「響子って言う名前なんです。音響の響に子供の子です。芳野さんのお母さんは?」
しばらくの沈黙の後、
創 :「美千代。美しいに、一・十・百・千の千、それに子供の子。あのーそれと、静香さんの
家って鎌倉の小町あたり?」
静香は、いつもの創とは何か違う空気を感じ、怪訝そうな声になった。
静香:「えっ、ええー。小町1-8-8ですけれど・・・、それが何か?」
こんな時、男性は取り繕うのが上手でない。特に創みたいな性格の人にとっては。
彼は自分らしい方法に切り替え、明るい声で
創 :「地方や海外に仕事に行った時、君に葉書きや手紙を書いてみたいと思って。
それと自宅の電話番号も。何か送る機会があるかもしれないから」
静香の控えめで、気恥ずかしそうな声が伝わってきた。
静香:「自宅の電話番号は、0467-22-3546です。私、葉書きや手紙は嬉しいです
けれど、何か送るなんて、そんなに気を遣われないでください」
創はそこまで聞いただけでも、手の平や背中に冷や汗をかいていた。「俺はカメラマンにはなれても、記者にはなれないな」と苦笑した。しかし、またひとつ二人の接点を見つけられた
ことは嬉しかった。
次の話題に移ろうとした時、静香の背後からもうひとつの声が響いてきた。
響子:「静香、ちょっと来てくれる。あら電話中?ごめん、後でいいわ」
創 :「お母さん?僕だったらいいよ。行ってあげて、これで切るから」
静香:「ごめんなさい。明日のことで、私に言っておきたいことでもあるんだと
思います。母、フラワーアレンジメントの講師しているんです。明日は
午後から新幹線で大阪に行く予定なの。大阪市内のホテルで研修が
あるそうです。だから、卒業謝恩パーティには出席できないんです。
また私の方から電話します。折り入って、芳野さんに頼みたいことも
あるので」
静香は創との電話に心残りを感じながら、制服をハンガーに吊るし、母の待つ和室へと
向った。今日は3月3日、雛の顔がいっそう華やいで見える。
その夜、静香と創はほとんど同時に
お互いの声を感じ取った。
静香:「もしもし」
創 :「もしもし」
それは息の合った、アルトとバスの
ハーモニーのようだった。声を聞きたいと思った相手からの第一声、それ
だけでも人の心は和み楽しくさせる。
苦笑するお互いのしぐさまでもが、
見えるようだ。
創、嬉しそうに
創 :「元気だった?確か明日だったね。卒業、おめでとう」
静香:「覚えていてくださったのですか?ありがとうございます。K女学院の卒業式って、
例年4日と決まっているのですけれど、今年は3月3日に変更になったのです。
不思議と、氷雨が降って寒い日が多いのです。でも、明日は晴れるみたいで
ほっとしました。特に、母が着物着たいみたいなので」
創 :「女性の着物姿、なかなかいい
よね。そう言えば、僕の母も大学
の入学式に着てくれたっけ。
N大学の入学式って武道館で
行われるんだよ。まだ、案内状
来ない?母のこと、綺麗だなって
思って嬉しい反面、気恥ずかし
かった。わざと、少し距離を置
いて歩いたりして。ところで、
静香さんのお母さんって何て
名前?」
創は静香に悟られないように気遣いながら、母が渡してくれたメモを見ていた。メモには
「氏名:遠山 響子 住所:鎌倉市小町1-8-8 電話:0467-22-3546」と書かれている。
彼女に見えるわけではないのに、妙に緊張する自分がおかしかった。
それに反して、何も知らない静香の声は穏やかに透き通っている。
静香:「響子って言う名前なんです。音響の響に子供の子です。芳野さんのお母さんは?」
しばらくの沈黙の後、
創 :「美千代。美しいに、一・十・百・千の千、それに子供の子。あのーそれと、静香さんの
家って鎌倉の小町あたり?」
静香は、いつもの創とは何か違う空気を感じ、怪訝そうな声になった。
静香:「えっ、ええー。小町1-8-8ですけれど・・・、それが何か?」
こんな時、男性は取り繕うのが上手でない。特に創みたいな性格の人にとっては。
彼は自分らしい方法に切り替え、明るい声で
創 :「地方や海外に仕事に行った時、君に葉書きや手紙を書いてみたいと思って。
それと自宅の電話番号も。何か送る機会があるかもしれないから」
静香の控えめで、気恥ずかしそうな声が伝わってきた。
静香:「自宅の電話番号は、0467-22-3546です。私、葉書きや手紙は嬉しいです
けれど、何か送るなんて、そんなに気を遣われないでください」
ことは嬉しかった。
次の話題に移ろうとした時、静香の背後からもうひとつの声が響いてきた。
響子:「静香、ちょっと来てくれる。あら電話中?ごめん、後でいいわ」
創 :「お母さん?僕だったらいいよ。行ってあげて、これで切るから」
静香:「ごめんなさい。明日のことで、私に言っておきたいことでもあるんだと
思います。母、フラワーアレンジメントの講師しているんです。明日は
午後から新幹線で大阪に行く予定なの。大阪市内のホテルで研修が
あるそうです。だから、卒業謝恩パーティには出席できないんです。
また私の方から電話します。折り入って、芳野さんに頼みたいことも
あるので」
静香は創との電話に心残りを感じながら、制服をハンガーに吊るし、母の待つ和室へと
向った。今日は3月3日、雛の顔がいっそう華やいで見える。
by jsby
| 2005-11-25 14:42
| 追憶 冬物語