2005年 12月 28日
冬の追憶No.22-3 |
「第5話 迷路」
今回の投稿は、「冬の追憶No.22-2~3」の2ページに渡っています。振り返って、ご覧ください。
ふたりは、エレベーターでロビーへと降りた。ロビーには、大型の花瓶にたくさんの黄色に輝くユリの花とオンジューム(黄色の可憐な小型の洋蘭)が飾られていた。そのあまりの見事さに、ふたりは目を見張った。花というものは不思議な魅力を持っている。花が一輪飾られているだけでも、人の心は和む。またその香りに包まれているだけで、幸せな気持ちになれる。
(上記写真は、「ホテル モントレ大阪」のロビーのものではありません。実際は横浜ランド
マークタワー内にある「横浜ロイヤルパークホテル」のロビーです。)
彼らは職業柄の興味も手伝って、しばらくその場で観察をしていた。ロビーの窓際にはふかふかのソファーが何脚も置かれ、待ち合わせをする人、打ち合わせをする人、ぼんやりと休息を取っている人などがいる。
木村:「ねえ遠山さん、私たちもあのふかふかのソファーに座ってみない?」
響子:「そうね。あんなすてきなソファー、自分では買えないものね。ここのホテルは
調度品もすばらしいわね。まるで別世界に来たみたい。こんなすてきなホテルで
3日間も勉強できるなんて、幸せだわ」
木村:「遠山さんて、可愛いい人ね。素直に自分の気持ちを表現することができて」
響子はソファーの方に行きかけて、驚愕した。それ以上足が進まなくなってしまうほど驚いた。なんとなく向けた視線の先に、信じられない光景を見てしまったのだ。それは、はるか昔に封印してしまった記憶の扉を覗いてしまったような心境だった。突然、青ざめた表情に変わった響子を見て、木村が心配そうに声を掛けてきた。
木村:「遠山さん、遠山さん、どうしたの。貴女、顔が真っ青よ。急に具合でも悪くなっ
たの?」
木村の言葉に響子は我に返った。
響子:「大丈夫。少し疲れただけ。心配しないでね。私、ちょっとトイレに行ってくる
から、ホテルの玄関で待っていてください」
木村:「本当に大丈夫なの?私もついて行きましょうか?」
響子:「本当に大丈夫よ」
木村:「そうね。この中、暖房がよくきいているから、ボォツーとしたのかもね。冷たいお水
でも飲んでくるといいわ。じゃ私、玄関を出たところで待ってるわね」
(上記写真は、「ホテル モントレ大阪」のロビーのものではありません。実際は横浜ランド
マークタワー内にある「横浜ロイヤルパークホテル」のロビーです。)
木村の姿が見えなくなるのを確認すると、響子は花の陰から視線の先の人をもう一度よく
観察した。間違いない、一生もう会うことはないと心に誓ったはずの人に、こんな所で出くわす
なんて。それはまぎれもなく芳野 千尋だった。
中年に達し少し太ったみたいだったが、長身で端正な顔立ちは変わっていなかった。学生時代にはなかった落ち着きが加わり、すてきに歳を重ねたようだった。この場に、遠山誠がいたらどうしただろう。はからずも、響子はかつての「創」と「作」という二人の男性を、深く愛してしまったのだ。
響子と千尋は学生時代のある日、辛い別れを経験した。自分たちの力では、どうすることも
できない運命のいたずらに翻弄され続けた。このままでは、愛が憎しみに変わってしまうかもしれない。深く愛し合っているゆえに、二人で出した結論だった。彼らは大学を卒業し就職したら、結婚しようねと誓ったほど仲のいい恋人同士だった。それ以来、彼らは偶然という運命を呪い嫌になってしまった。
ふたりは愛の記憶のすべて消し去るため、生まれ故郷仙台の北上川の川辺で自分達の
お葬式をしたのだった。大学時代にふたりで撮った写真、交換した手紙、お互いに贈リ合った
プレゼント、そのすべてを燃やしてしまったのだった。愛の足跡も想いさえも消し去るために。
こうして、ふたりは記憶の扉に鍵をかけ、完全に封印してしまったのだ。
千尋はこの時、「くそー、くそー、ばかやろう」と泣きながら、自分の大学時代の写真のすべてまでも燃やしてしまった。だから、いくら美千代と創が探しても彼の大学時代の写真は1枚もないはずである。
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ふたりは、エレベーターでロビーへと降りた。ロビーには、大型の花瓶にたくさんの黄色に輝くユリの花とオンジューム(黄色の可憐な小型の洋蘭)が飾られていた。そのあまりの見事さに、ふたりは目を見張った。花というものは不思議な魅力を持っている。花が一輪飾られているだけでも、人の心は和む。またその香りに包まれているだけで、幸せな気持ちになれる。
マークタワー内にある「横浜ロイヤルパークホテル」のロビーです。)
彼らは職業柄の興味も手伝って、しばらくその場で観察をしていた。ロビーの窓際にはふかふかのソファーが何脚も置かれ、待ち合わせをする人、打ち合わせをする人、ぼんやりと休息を取っている人などがいる。
木村:「ねえ遠山さん、私たちもあのふかふかのソファーに座ってみない?」
響子:「そうね。あんなすてきなソファー、自分では買えないものね。ここのホテルは
調度品もすばらしいわね。まるで別世界に来たみたい。こんなすてきなホテルで
3日間も勉強できるなんて、幸せだわ」
木村:「遠山さんて、可愛いい人ね。素直に自分の気持ちを表現することができて」
響子はソファーの方に行きかけて、驚愕した。それ以上足が進まなくなってしまうほど驚いた。なんとなく向けた視線の先に、信じられない光景を見てしまったのだ。それは、はるか昔に封印してしまった記憶の扉を覗いてしまったような心境だった。突然、青ざめた表情に変わった響子を見て、木村が心配そうに声を掛けてきた。
木村:「遠山さん、遠山さん、どうしたの。貴女、顔が真っ青よ。急に具合でも悪くなっ
たの?」
木村の言葉に響子は我に返った。
響子:「大丈夫。少し疲れただけ。心配しないでね。私、ちょっとトイレに行ってくる
から、ホテルの玄関で待っていてください」
木村:「本当に大丈夫なの?私もついて行きましょうか?」
響子:「本当に大丈夫よ」
木村:「そうね。この中、暖房がよくきいているから、ボォツーとしたのかもね。冷たいお水
でも飲んでくるといいわ。じゃ私、玄関を出たところで待ってるわね」
マークタワー内にある「横浜ロイヤルパークホテル」のロビーです。)
木村の姿が見えなくなるのを確認すると、響子は花の陰から視線の先の人をもう一度よく
観察した。間違いない、一生もう会うことはないと心に誓ったはずの人に、こんな所で出くわす
なんて。それはまぎれもなく芳野 千尋だった。
中年に達し少し太ったみたいだったが、長身で端正な顔立ちは変わっていなかった。学生時代にはなかった落ち着きが加わり、すてきに歳を重ねたようだった。この場に、遠山誠がいたらどうしただろう。はからずも、響子はかつての「創」と「作」という二人の男性を、深く愛してしまったのだ。
響子と千尋は学生時代のある日、辛い別れを経験した。自分たちの力では、どうすることも
できない運命のいたずらに翻弄され続けた。このままでは、愛が憎しみに変わってしまうかもしれない。深く愛し合っているゆえに、二人で出した結論だった。彼らは大学を卒業し就職したら、結婚しようねと誓ったほど仲のいい恋人同士だった。それ以来、彼らは偶然という運命を呪い嫌になってしまった。
ふたりは愛の記憶のすべて消し去るため、生まれ故郷仙台の北上川の川辺で自分達の
お葬式をしたのだった。大学時代にふたりで撮った写真、交換した手紙、お互いに贈リ合った
プレゼント、そのすべてを燃やしてしまったのだった。愛の足跡も想いさえも消し去るために。
こうして、ふたりは記憶の扉に鍵をかけ、完全に封印してしまったのだ。
千尋はこの時、「くそー、くそー、ばかやろう」と泣きながら、自分の大学時代の写真のすべてまでも燃やしてしまった。だから、いくら美千代と創が探しても彼の大学時代の写真は1枚もないはずである。
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by jsby
| 2005-12-28 00:08
| 追憶 冬物語