2006年 02月 26日
冬の追憶No.22-29 |
「第5話 迷路」
謝恩パーティに出席していた各クラスの教師、父兄、生徒達がそれぞれ、帰り仕度を始めたその頃、ひとりの男性教師が「バンケットホール七里ヶ浜」のドアを開けて入ってきた。K女学院の演劇部顧問教師の浜野 涼介(26歳)だった。彼は高等部2年生のクラスの担任を務めている。
卒業式には出席したものの、謝恩パーティの方は学校の用事が重なって参加できないでいた。それでせめて、彼が顧問を務めた演劇部の生徒達に卒業のお祝いとお別れの言葉をかけてあげたくて、わざわざかけつけて来たのだった。
飾らない人柄とスマートな容貌の浜野は、女子学生ばかりでなく彼女達の母親にも人気が
あった。若い彼は規則の厳しい学校の中にあって、生徒の立場に立って考え行動してくれた。そのさわやかで温厚な性格は、誰からも慕われた。そんな彼が演劇部の顧問になると、どっと部員が増えた。千晶も静香もそんな浜野に、淡い憧れを持った時期さえあった。
彼が会場へと入っていくと、元演劇部出身の生徒たち数人が「わあっ~、浜野先生だ~!」と歓声を上げながら駆け寄って来た。その中に山本 麗奈の姿もあった。千晶も静香も浜野の側まで行ったものの、元気のいい生徒たちに押され後方へと追いやられてしまった。そして、皆はかわるがわる浜野と並んで写真を撮り合い始めた。
千晶と静香も携帯のカメラを構え、自分たちに気付いてくれるのをじっと待っていた。しばらくして、彼は後方で控えている父兄たちにも挨拶をしようとして、千晶と静香の姿に気が付いた。そして彼の方から、彼女たちの方に向かってゆっくりと近付いてきた。
浜野:「静香、千晶、卒業おめでとう。希望どおりの大学に進めてよかったなあ~。先生も
嬉しいよ。ところで静香、成績優秀者で表彰されたんだって、担任の先生から聞い
たよ。きっと、君の亡くなったお父さんも喜んでおられるだろう。頑張ったな」
そう言いながら、喜びを分かち合う同志のように静香の肩に手を置いた。
その光景を暗闇の中でちろちろと燃える赤い炎のような瞳を持つ人物が、じっと眺めていた。そして氷のような微笑をたたえながら、彼らの元へ近づいてきた。山本麗奈だった。
さっき彼女とバトルを繰り広げたばかりの千晶が一瞬身構えた。しかし、今度は爪を隠した
雌猫のように優しく、
麗奈:「静香、おめでとう。さすがだわ。N大学に行ってもよろしくね。私、デジカメ持って
きているから、浜野先生と並んだところ撮ってあげるわ」
千晶と静香がためらっていると、浜野が
浜野:「山本ありがとう。せっかくだから、3人で撮ってもらおうじゃないか」
千晶は急に優しくなった麗奈の態度に薄気味悪さを感じて、
千晶:「いいわ。私達、カメラ付携帯電話で
撮るから、気を使わないで」
浜野:「小林、元演劇部の仲間じゃないか。
そんなによそよそしくしないで山本
に撮ってもらおうよ。山本、写真でき
たら皆にも焼き増ししてくれよな」
麗奈がカメラのファインダーを覗きながら笑顔で、
麗奈:「はい、勿論です。じゃ最初は3人で肩を組むようなポーズして。それから、次は
同じポーズで先生と千晶、そして静香と先生の順番でどうですか。失敗すると
いけないから、2枚ずつ撮りますね」
浜野の助言に背中を押され、千晶と静香は妙な思いでしぶしぶ麗奈の誘導する言葉に
従った。3人一緒の写真、千晶と浜野の写真を撮り終え、静香と浜野の番になった。
麗奈:「静香、もっと嬉しそうに笑って。浜野先生も、もっと近づいて」
そう言いながら、入念にシャッターを押した。
後方で、麗奈の友達が「自分たちも、同じポーズで浜野と写真を撮って欲しい」とせがん
だが、
麗奈:「あっ、もう『メモリがいっぱいです』って表示がでちゃった。ごめんね」と、やんわり
かわしその友人と帰っていった。麗奈がこの時撮影した写真が後になって創と静香の
さわやかな恋に、水をさす形となっていく。
静香も千晶も、浜野ともっと話をしたかったが、彼もまた教頭先生に呼ばれ、その場から
立去るざるを得なかった。おそらくこの後、先生方全員で食事にでも行こうかというような
誘いかもしれないと思った。
何となく釈然としない思いを残したたまま、静香と千晶は「バンケットホール七里ヶ浜」を
出た。ふたりは夕陽を見るために、ホテル前の湘南道路を渡り七里ガ浜駐場の『ファースト
キッチン』の海岸デッキへ向かった。時間は午後4時近くになり、七里ガ浜の海岸に美しい
夕闇が訪れようとしていた。
※「七里ガ浜駐場の『ファーストキッチン』の場所については、下記の「鎌倉プリンスホテル
アクセスマップ」を参照されてください。
「鎌倉プリンスホテルアクセスマップ」
また、「鎌倉ブログ」のよろずやさんが、今年の1月31日の雪の日に七里ガ浜の鎌倉プリンスホテル前で、江ノ電の写真を撮影されたとの情報をくださいました。この写真は、2月1日発行のかまくら議会たよりにも掲載されたそうです。下記にリンクさせていただきましたので、ご覧になってみてください。よろずやさん、ありがとうございました。
鎌倉『雪の中を疾走する江ノ電』 七里ガ浜プリンスホテル前
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謝恩パーティに出席していた各クラスの教師、父兄、生徒達がそれぞれ、帰り仕度を始めたその頃、ひとりの男性教師が「バンケットホール七里ヶ浜」のドアを開けて入ってきた。K女学院の演劇部顧問教師の浜野 涼介(26歳)だった。彼は高等部2年生のクラスの担任を務めている。
卒業式には出席したものの、謝恩パーティの方は学校の用事が重なって参加できないでいた。それでせめて、彼が顧問を務めた演劇部の生徒達に卒業のお祝いとお別れの言葉をかけてあげたくて、わざわざかけつけて来たのだった。
飾らない人柄とスマートな容貌の浜野は、女子学生ばかりでなく彼女達の母親にも人気が
あった。若い彼は規則の厳しい学校の中にあって、生徒の立場に立って考え行動してくれた。そのさわやかで温厚な性格は、誰からも慕われた。そんな彼が演劇部の顧問になると、どっと部員が増えた。千晶も静香もそんな浜野に、淡い憧れを持った時期さえあった。
千晶と静香も携帯のカメラを構え、自分たちに気付いてくれるのをじっと待っていた。しばらくして、彼は後方で控えている父兄たちにも挨拶をしようとして、千晶と静香の姿に気が付いた。そして彼の方から、彼女たちの方に向かってゆっくりと近付いてきた。
浜野:「静香、千晶、卒業おめでとう。希望どおりの大学に進めてよかったなあ~。先生も
嬉しいよ。ところで静香、成績優秀者で表彰されたんだって、担任の先生から聞い
たよ。きっと、君の亡くなったお父さんも喜んでおられるだろう。頑張ったな」
そう言いながら、喜びを分かち合う同志のように静香の肩に手を置いた。
さっき彼女とバトルを繰り広げたばかりの千晶が一瞬身構えた。しかし、今度は爪を隠した
雌猫のように優しく、
麗奈:「静香、おめでとう。さすがだわ。N大学に行ってもよろしくね。私、デジカメ持って
きているから、浜野先生と並んだところ撮ってあげるわ」
千晶と静香がためらっていると、浜野が
浜野:「山本ありがとう。せっかくだから、3人で撮ってもらおうじゃないか」
千晶は急に優しくなった麗奈の態度に薄気味悪さを感じて、
千晶:「いいわ。私達、カメラ付携帯電話で
撮るから、気を使わないで」
浜野:「小林、元演劇部の仲間じゃないか。
そんなによそよそしくしないで山本
に撮ってもらおうよ。山本、写真でき
たら皆にも焼き増ししてくれよな」
麗奈がカメラのファインダーを覗きながら笑顔で、
麗奈:「はい、勿論です。じゃ最初は3人で肩を組むようなポーズして。それから、次は
同じポーズで先生と千晶、そして静香と先生の順番でどうですか。失敗すると
いけないから、2枚ずつ撮りますね」
浜野の助言に背中を押され、千晶と静香は妙な思いでしぶしぶ麗奈の誘導する言葉に
従った。3人一緒の写真、千晶と浜野の写真を撮り終え、静香と浜野の番になった。
麗奈:「静香、もっと嬉しそうに笑って。浜野先生も、もっと近づいて」
そう言いながら、入念にシャッターを押した。
後方で、麗奈の友達が「自分たちも、同じポーズで浜野と写真を撮って欲しい」とせがん
だが、
麗奈:「あっ、もう『メモリがいっぱいです』って表示がでちゃった。ごめんね」と、やんわり
かわしその友人と帰っていった。麗奈がこの時撮影した写真が後になって創と静香の
さわやかな恋に、水をさす形となっていく。
静香も千晶も、浜野ともっと話をしたかったが、彼もまた教頭先生に呼ばれ、その場から
立去るざるを得なかった。おそらくこの後、先生方全員で食事にでも行こうかというような
誘いかもしれないと思った。
出た。ふたりは夕陽を見るために、ホテル前の湘南道路を渡り七里ガ浜駐場の『ファースト
キッチン』の海岸デッキへ向かった。時間は午後4時近くになり、七里ガ浜の海岸に美しい
夕闇が訪れようとしていた。
※「七里ガ浜駐場の『ファーストキッチン』の場所については、下記の「鎌倉プリンスホテル
アクセスマップ」を参照されてください。
「鎌倉プリンスホテルアクセスマップ」
また、「鎌倉ブログ」のよろずやさんが、今年の1月31日の雪の日に七里ガ浜の鎌倉プリンスホテル前で、江ノ電の写真を撮影されたとの情報をくださいました。この写真は、2月1日発行のかまくら議会たよりにも掲載されたそうです。下記にリンクさせていただきましたので、ご覧になってみてください。よろずやさん、ありがとうございました。
鎌倉『雪の中を疾走する江ノ電』 七里ガ浜プリンスホテル前
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by jsby
| 2006-02-26 04:32
| 追憶 冬物語