2007年 01月 19日
冬の追憶No.23-36 |
「第6話 エニグマ変奏曲」
今回の投稿は「冬の追憶No.23-35~36」までの2稿に渡っています。振り返って、ご覧
ください。また、「第6話」は今回の投稿で終了し、物語は「第7話」へと移ってまいります。
そして、「そうだわ。母さんにも報告しておかなければ」と思い母の部屋の前へと立った。
中から灯りがもれている。ノックをすると、次の授業用のサンプルでも作っていたのだろう。
フローリスト鋏を手にした母が出てきた。
響子:「あら、まだ寝てなかったの?」
静香:「うん。母さんこそ、また次の授業の予習?あんまり無理しないでね。私、心配だから」
響子:「大丈夫よ。つい夢中になってしまって。もう少しで終わるわ。ところで、何か母さんに
話したいことでもあるの?」
静香:「うん。アルバイトのことなんだけど」
響子:「ちょっと待ってね。部屋の照明を明るくするから。この間も言ったけど、経済的なこと
は本当に心配しなくていいのよ。学業優先に考えていればいいんだから」
静香:「わかっているわ。実は、決まるまでは母さんに黙っていようと思っていたんだけど、
さっき、連絡があってアルバイトに採用されることになったの」
響子:「だってまだ春休み中じゃない。ま、いいけど。どんな仕事なの?」
静香:「東宝東和という洋画配給会社のアルバイト。内容は試写会に当選した人の葉書の
宛名書きや試写会の受付。それに映画に関するアンケートを読んで、それに適した
批評を探し出すような仕事。それ以外の雑用もあるかもしれないけど。映画の勉強
しながら仕事もできるので、私にぴったりだと思うの。それで明日採用担当の人に
連絡を取るんだけど、母さんにも話しておこうと思って」
響子:「あら、すごいじゃない。よくそんな仕事あったわね。新聞か雑誌で公募していたの?」
静香:「そうじゃないの。大学の先輩に頼んで探してもらったら、ちょうど就職するのでやめる
人がいて、その後任なの。ラッキーだったわ」
響子:「大学の先輩って?静香の学校の演劇部の先輩?N大芸術学部に進学した人なんて
いたかしら。でも、よかったわね。そういう仕事なら、母さんも安心だわ。ところで、その
会社って何処にあるの?」
静香:「地下鉄の半蔵門線の半蔵門の駅から歩いて、5・6分みたいなの。ウィークデーは
裕子伯母さんのところから大学に通いながら、アルバイトをするつもり。でも、母さん。
私が平日居なくって大丈夫?」
響子:「母さんのことは心配しないでも大丈夫よ。いざとなったら、潤にも手伝ってもらうから。
それよりも勉強を一杯して、大学生活も楽しみなさいね。自分で自分の子供を誉める
のも変だけど、静香は性格もいいし奇麗だから、きっと男子学生にもてるわよ」
静香:「母さんこそ?」
響子:「何で?」
静香:「だって、大学を出てすぐに父さんと結婚したんでしょう。父さんって、情熱的だった
のね。他の人に母さんを取られたくなかったのかもね。でも、その頃はまだ脚本家
としての仕事もなかったんじゃ。それに結婚してすぐに作兄さんも生まれたし生活も
大変だったんじゃない?」
響子:「もう昔のことよ。若いということは素晴しいことだけど、時には周りの人に心配をかけ
たり、傷つけたりしてしまうものよ。でも、母さんは父さんのおかげで幸せになれた。
いまでも感謝しているわ」
静香:「ねぇ、そんなに早く結婚して母さんのお父さんやお母さんは反対しなかったの?」
響子:「・・・・」
それまで快活に話していた響子の言葉が急に途切れた。そして作りかけのアレンジメントのサンプルの方に視線を移し、
響子:「もう遅いわ。母さん、これを今夜中に仕上げたいの。悪いけど、一人にしてくれない」
思ってもない母の言葉だった。それ以上は立ち入って欲しくない様子がありありと感じ取れた。やはり、父と結婚するまでに何らかの事情があったのだろう。「若いということは素晴しいことだけど、時には周りの人に心配をかけたり、傷つけたりしてしまうものよ」という母の言葉が印象的だった。
この物語を幅広く皆様にお読みいだだけたらと思い、下記の「ブログランキング」
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そして、「そうだわ。母さんにも報告しておかなければ」と思い母の部屋の前へと立った。
中から灯りがもれている。ノックをすると、次の授業用のサンプルでも作っていたのだろう。
フローリスト鋏を手にした母が出てきた。
静香:「うん。母さんこそ、また次の授業の予習?あんまり無理しないでね。私、心配だから」
響子:「大丈夫よ。つい夢中になってしまって。もう少しで終わるわ。ところで、何か母さんに
話したいことでもあるの?」
静香:「うん。アルバイトのことなんだけど」
響子:「ちょっと待ってね。部屋の照明を明るくするから。この間も言ったけど、経済的なこと
は本当に心配しなくていいのよ。学業優先に考えていればいいんだから」
静香:「わかっているわ。実は、決まるまでは母さんに黙っていようと思っていたんだけど、
さっき、連絡があってアルバイトに採用されることになったの」
響子:「だってまだ春休み中じゃない。ま、いいけど。どんな仕事なの?」
静香:「東宝東和という洋画配給会社のアルバイト。内容は試写会に当選した人の葉書の
宛名書きや試写会の受付。それに映画に関するアンケートを読んで、それに適した
批評を探し出すような仕事。それ以外の雑用もあるかもしれないけど。映画の勉強
しながら仕事もできるので、私にぴったりだと思うの。それで明日採用担当の人に
連絡を取るんだけど、母さんにも話しておこうと思って」
響子:「あら、すごいじゃない。よくそんな仕事あったわね。新聞か雑誌で公募していたの?」
人がいて、その後任なの。ラッキーだったわ」
響子:「大学の先輩って?静香の学校の演劇部の先輩?N大芸術学部に進学した人なんて
いたかしら。でも、よかったわね。そういう仕事なら、母さんも安心だわ。ところで、その
会社って何処にあるの?」
静香:「地下鉄の半蔵門線の半蔵門の駅から歩いて、5・6分みたいなの。ウィークデーは
裕子伯母さんのところから大学に通いながら、アルバイトをするつもり。でも、母さん。
私が平日居なくって大丈夫?」
響子:「母さんのことは心配しないでも大丈夫よ。いざとなったら、潤にも手伝ってもらうから。
それよりも勉強を一杯して、大学生活も楽しみなさいね。自分で自分の子供を誉める
のも変だけど、静香は性格もいいし奇麗だから、きっと男子学生にもてるわよ」
静香:「母さんこそ?」
響子:「何で?」
のね。他の人に母さんを取られたくなかったのかもね。でも、その頃はまだ脚本家
としての仕事もなかったんじゃ。それに結婚してすぐに作兄さんも生まれたし生活も
大変だったんじゃない?」
響子:「もう昔のことよ。若いということは素晴しいことだけど、時には周りの人に心配をかけ
たり、傷つけたりしてしまうものよ。でも、母さんは父さんのおかげで幸せになれた。
いまでも感謝しているわ」
静香:「ねぇ、そんなに早く結婚して母さんのお父さんやお母さんは反対しなかったの?」
響子:「・・・・」
それまで快活に話していた響子の言葉が急に途切れた。そして作りかけのアレンジメントのサンプルの方に視線を移し、
響子:「もう遅いわ。母さん、これを今夜中に仕上げたいの。悪いけど、一人にしてくれない」
思ってもない母の言葉だった。それ以上は立ち入って欲しくない様子がありありと感じ取れた。やはり、父と結婚するまでに何らかの事情があったのだろう。「若いということは素晴しいことだけど、時には周りの人に心配をかけたり、傷つけたりしてしまうものよ」という母の言葉が印象的だった。
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by jsby
| 2007-01-19 18:20
| 追憶 冬物語