2007年 02月 01日
冬の追憶No.24-3 |
「第7話 若しも・・・」
今回の投稿は「冬の追憶No.24-2~3」までの2稿に渡っています。振り返って、ご覧
ください。
その1時間後、ふたりはコリドー街にある「ル・シズィエム・サンス(le 6eme sens)」というレストランにいた。オレンジ色の日よけテントや椅子が街路の緑に映えて、モダンな感じのする店だった。壁一面、たくさんのワインボトルで埋め尽くされた店内は大きめの窓から射し込む光の中で輝き美しかった。
ル・シズィエム・サンス「le 6eme sens」
フランス料理情報サービス
静香:「明るくって、センスのいいお店ですね」
創 :「ここはね、ル・シズィエム・サンスって言ってね、銅版画家の山本容子さんがプロデュ
ースした店なんだ。店のところどころに飾られているのは彼女の作品。ところで、ル・
シズィエム・サンスって、どんな意味だかわかる?」
静香:「・・・・」
創 :「和訳すると第六感。そのネーミングも山本容子さんが名付けの親らしいよ。五感を
超えた感動をお客様に味わっていただきたいという想いから名付けられたって、グル
メ関係の雑誌に書いてあったっけ。五感は目・口・耳・鼻・手で感じ取る能力。第六感
は、人の五感を越えた無意識のうちに感じる知的感覚。女性はその能力が高いじゃ
ないかな」
創 :「店の説明はこのくらいにして、先に注文してしまおうか。この店はランチ以外の時間
帯でも1500円メニューというのがあって、オードブル、メイン、パン、デザート、それに
コーヒーまで飲めるのが魅力。夕食には早いけど、小腹が空いた時に、ちょっと立ち寄
ってみたくなるようなお洒落な店というふれこみで女性に人気なんだ。それでいい?」
静香:「ええ、おまかせします」
創が食事の注文を終えるのを待っていたかのように、静香がバッグから両親と芳野千尋の大学時代の写真のコピーを取り出した。
静香:「あの~、この間、お話した写真、これなんですけれど。父と母はすぐわかったんです
けれど、芳野という苗字の男性が3人いて、どの人かなと思って、芳野さんから預か
った写真と照らし合わせてみたんです。芳野さんのお父さんって、千尋さんっておっし
ゃるんですか?」
創 :「そうそう、そうだけど、ちょっと見せて。うん、間違いなく僕の父さんだ。随分、若いなあ」
静香:「やはりそうでしたか。何となく芳野さんにも似ていたから、きっとそうだと思いました。
あの~、芳野さんのお父さんって大学時代に誰かと組んで、脚本を書く勉強をして
いたなんて話していませんでした?」
創 :「僕もそのことで、母にも聞いてみたんだけど、それらしい気配もないんだ。第一、大学
時代の話もしたことがないし、アルバムすらないくらいだから。」
静香:「以前にも、芳野さんにお話したことがあると思うんですけれど、父は大学時代にある
同僚と、合同でシナリオを書いていたそうです。とてもいいコンビでアイディアが溢れる
ように出てきておもしろいようにいろいろな物語が書けたって言っていました。ペンネー
ムは、父が「創」そしてその同僚が「作」。そして二人合わせて『創作』」
静香:「その後『作』というペンネームの男性は商社へ就職してしまったそうです。そして卒業
も間近になって父達は、結婚して最初に男の子が生まれたら「創」また下に男の子が
生まれたら「作」と名付けようと約束したって話していました。ふたりの密度の濃い4年
間を形に残したかったそうです」
静香:「その後、父はその人のことを随分探したらしいですけれど、『消息すらつかめない』
って、寂しそうに言っていました。若しかして、芳野さんのお父さんがその同僚かな
と、ずっと思っていました。芳野さんのお父さんって、商社員だし。双子の子供に『創』
と『作』って名前を付けているし。気になってしまって。芳野さんはどう思いますか?」
創 :「僕も君島編集長と君のお父さんのインタビュー記事を読んでいて、ひょっとしたらと
思っているけど、でも、だとしたら静香さんとしては何をどうしたい?」
静香:「わかりません・・・。だけど、父とその人の間に何かあったような気がして・・・」
いつになく思いつめたような静香の表情に、純粋さ故にガラスのような傷つきやすさを感じた。俺もこの年齢だったら、そうしたかもしれないと思った。
創 :「何もかも知ってすっきりしたいという静香さんの気持ちもわかるけど、自分の気持ち
だけで解決はできないような気がする。僕もそれとなく母経由で調べてみるから、あせ
らないで。でも、君の第六感があたっていると嬉しいな」
静香:「えっ・・・」
創 :「だって、僕は君と知り合って幸せだと思っているし、君の純粋でまっすぐなところも
好きだし、出会わせてもらった君のお父さんに感謝しなければね」
お嬢さん育ちだとばかり思って、接してきた静香の意外な一面が創の心に新鮮な感動を与えていた。そして、創の「それとなく母に聞いてみる」によって、新たな疑問が美千代にも伝播する結果となっていった。
この物語を幅広く皆様にお読みいだだけたらと思い、下記の「ブログランキング」
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今回の投稿は「冬の追憶No.24-2~3」までの2稿に渡っています。振り返って、ご覧
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その1時間後、ふたりはコリドー街にある「ル・シズィエム・サンス(le 6eme sens)」というレストランにいた。オレンジ色の日よけテントや椅子が街路の緑に映えて、モダンな感じのする店だった。壁一面、たくさんのワインボトルで埋め尽くされた店内は大きめの窓から射し込む光の中で輝き美しかった。
ル・シズィエム・サンス「le 6eme sens」
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静香:「明るくって、センスのいいお店ですね」
創 :「ここはね、ル・シズィエム・サンスって言ってね、銅版画家の山本容子さんがプロデュ
ースした店なんだ。店のところどころに飾られているのは彼女の作品。ところで、ル・
シズィエム・サンスって、どんな意味だかわかる?」
静香:「・・・・」
創 :「和訳すると第六感。そのネーミングも山本容子さんが名付けの親らしいよ。五感を
超えた感動をお客様に味わっていただきたいという想いから名付けられたって、グル
メ関係の雑誌に書いてあったっけ。五感は目・口・耳・鼻・手で感じ取る能力。第六感
は、人の五感を越えた無意識のうちに感じる知的感覚。女性はその能力が高いじゃ
ないかな」
創 :「店の説明はこのくらいにして、先に注文してしまおうか。この店はランチ以外の時間
帯でも1500円メニューというのがあって、オードブル、メイン、パン、デザート、それに
コーヒーまで飲めるのが魅力。夕食には早いけど、小腹が空いた時に、ちょっと立ち寄
ってみたくなるようなお洒落な店というふれこみで女性に人気なんだ。それでいい?」
静香:「あの~、この間、お話した写真、これなんですけれど。父と母はすぐわかったんです
けれど、芳野という苗字の男性が3人いて、どの人かなと思って、芳野さんから預か
った写真と照らし合わせてみたんです。芳野さんのお父さんって、千尋さんっておっし
ゃるんですか?」
創 :「そうそう、そうだけど、ちょっと見せて。うん、間違いなく僕の父さんだ。随分、若いなあ」
静香:「やはりそうでしたか。何となく芳野さんにも似ていたから、きっとそうだと思いました。
あの~、芳野さんのお父さんって大学時代に誰かと組んで、脚本を書く勉強をして
いたなんて話していませんでした?」
創 :「僕もそのことで、母にも聞いてみたんだけど、それらしい気配もないんだ。第一、大学
時代の話もしたことがないし、アルバムすらないくらいだから。」
静香:「以前にも、芳野さんにお話したことがあると思うんですけれど、父は大学時代にある
同僚と、合同でシナリオを書いていたそうです。とてもいいコンビでアイディアが溢れる
ように出てきておもしろいようにいろいろな物語が書けたって言っていました。ペンネー
ムは、父が「創」そしてその同僚が「作」。そして二人合わせて『創作』」
静香:「その後『作』というペンネームの男性は商社へ就職してしまったそうです。そして卒業
も間近になって父達は、結婚して最初に男の子が生まれたら「創」また下に男の子が
生まれたら「作」と名付けようと約束したって話していました。ふたりの密度の濃い4年
間を形に残したかったそうです」
って、寂しそうに言っていました。若しかして、芳野さんのお父さんがその同僚かな
と、ずっと思っていました。芳野さんのお父さんって、商社員だし。双子の子供に『創』
と『作』って名前を付けているし。気になってしまって。芳野さんはどう思いますか?」
創 :「僕も君島編集長と君のお父さんのインタビュー記事を読んでいて、ひょっとしたらと
思っているけど、でも、だとしたら静香さんとしては何をどうしたい?」
静香:「わかりません・・・。だけど、父とその人の間に何かあったような気がして・・・」
いつになく思いつめたような静香の表情に、純粋さ故にガラスのような傷つきやすさを感じた。俺もこの年齢だったら、そうしたかもしれないと思った。
創 :「何もかも知ってすっきりしたいという静香さんの気持ちもわかるけど、自分の気持ち
だけで解決はできないような気がする。僕もそれとなく母経由で調べてみるから、あせ
らないで。でも、君の第六感があたっていると嬉しいな」
静香:「えっ・・・」
創 :「だって、僕は君と知り合って幸せだと思っているし、君の純粋でまっすぐなところも
好きだし、出会わせてもらった君のお父さんに感謝しなければね」
お嬢さん育ちだとばかり思って、接してきた静香の意外な一面が創の心に新鮮な感動を与えていた。そして、創の「それとなく母に聞いてみる」によって、新たな疑問が美千代にも伝播する結果となっていった。
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by jsby
| 2007-02-01 21:18
| 追憶 冬物語