2007年 02月 27日
冬の追憶No.24-8 |
「第7話 若しも・・・」
遠山家のお墓の掃除を手伝ってくれている創を眺めながら、静香は父に何と紹介しようか
と考えていた。「こちら、大学の先輩の芳野創さん。お付き合いさせていただいている人なの。若しかしたら、父さんが探していた人の息子さんかもしれないの。だから心配しないで。見守っていてね」
そして創も何時になく緊張した面持ちで、こんな時は何と挨拶したらいいのかと考えていた。「初めまして、芳野創です。雑誌社のカメラマンをしています。静香さんのこと大切に思っています。頼りないかもしれませんが、静香さんの側にいて彼女のことを守ってあげたいです。
ですから、お嬢さんとお付き合いさせてください」
墓前に手を合わすふたりの姿は何時になく真剣で、時折交し合う瞳にはお互いを思いやる
優しさと真摯さが感じられた。

静香:「芳野さん、額にすごい汗。熱いですか?よかったら、このハンカチ使ってください」
創 :「ありがとう。君のお父さんにすべて見通されているみたいで、とても緊張してしまって、
どうしていいかわからないくらいだ。大切に育てたこんなに可愛いお嬢さんとお付き合
いさせてもらっているのだから当然だけど」
創 :「ところでお墓を誉めるのも変だけど、遠山家のお墓って遠くの山が一望できて眺めの
いい所にあるんだね。ここにお墓を買われたのはお母さん?」
静香:「いいえ、実は父なんです。父より兄の方が先に亡くなっているので。私も、父にどう
して浄妙寺にお墓を買ったのと聞いたことがあったんです。そしたら『作兄さんは海
で溺れて亡くなったので、海が怖いかもしれない。だから海からは遠くって見晴らし
のいい、お日様が1日中当たっている寂しくない所という条件で探した』って言って
いました」

そう言いながら、静香が傍らの墓碑板を指差した。それには誠の他に、『作法禅童子 享年
4歳 昭和五十五年七月二日没』と刻まれていた。
創 :「そうだったのか。そういう意味では、ここはお父さんが考えた条件にぴったりな所だね」
ほんの数日前に千尋がそうしたように、創も静香の話しに耳を傾けながら墓碑版の文字を書き写した。やがてふたりは石釜ガーデンテラスへの続く坂道をゆっくりと上がっていった。
レストランは休日の昼時のせいか、とても混んでいた。しばらくして、幸運なことに庭園に面
したテラス席が空いた。

注文を済ませると、創が静香の前にA4版ぐらいの紙を2枚差し出した。それにはお互いの家の相関図が書かれていた。
創 :「君に見て欲しいものって、これなんだけど」
静香:「これは・・・相関図」
創 :「そう、君のお父さんと僕の父がかつて同じ大学の同僚で、『創と作』というペンネーム
を使って合同でシナリオを書いていたと仮定して、両家の相関図を作ってみたんだ。
これをもとにして、お互いに気付いたことをまとめてみようかと思って」
そう言いながら、何も書かれていない別の紙を静香にと手渡した。
静香:「さすがだわ。私はこんなこと思いつきもしませんでした」

創 :「これまでに分かっていることを箇条書きにしてみよう。
・遠山家の両親、芳野家の両親とも宮城県出身
・誠さん・響子さん・千尋さんは全員W大学の第一文学部の卒業生
・大学時代に『創』と『作』というペンネームを使って合同でシナリオを書いていた
(ただし、作が芳野千尋であるか確認が取れていない)
・『創』である遠山氏はドラマ作家へ
・かつての同僚『作』という男性は商社へ就職(芳野千尋も商社勤務)
・結婚して最初に男の子が生まれたら『創』また下に男の子が生まれたら『作』と
名付けようと約束(芳野千尋は双子に『創と作』という名前を付けているが、遠山誠
は長男に『作』次男に『潤』と付けている)
・遠山家の長男の『作』は4歳で死亡。芳野家の双子のうち『作』はニューヨークで誘拐
され行方不明(偶然に同じ名前。生きていれば遠山作が26歳、芳野作は25歳)
まだ他にもあるかもしれないけれど、これくらいかな」
創 :「腑に落ちないことを話し合ってみようか。最初の子供が生まれた年齢から推定して、
遠山誠さん響子さんは22歳か23歳。在学中から付き合っていて、卒業した年か
あくる年に親になっている。僕が卒業した大学でも同期生同士で恋愛して結婚した
カップルはいるけど、子供が生まれるというのに男性に定職がないケースは珍しい。
静香さんはどう思う?」
静香:「私も慎重な父らしくないと思って、数日前に母に聞いてみたのですけれど、気分
を害したみたいではぐらかされてしまいました」

創 :「そして僕の父、芳野千尋は24歳、母の美千代は22歳で親になっている。母に聞い
たら、見合い結婚だって言っていた。入社一年目の新入社員がニューヨーク赴任の
チャンスをつかむために見合いまでして結婚するなんて。父は僕から見てもやり手
でハンサムだし、そんなに急いで結婚する必要があったのかなとさえ、思っているん
だけど」
静香:「芳野さんのお祖父さん、お祖母さんってどんな方ですか?」
創 :「祖父はとてもエリート意識の高い銀行マンだったって、父がよく言っていた。だから、
僕がカメラマンになるって聞いたら、カメラだって。そんなどうしようもないもので食
べていかれるのかって、父はすごく怒られたそうなんだ。だから、僕も祖父のことは
好きでないし、尊敬もしていない」
創 :「それに、母から聞いた静香さんのお母さんの話だと静香さんのお父さん。つまり静香
さんのお母さんが大学4年生の時に、お祖父さんが事業に失敗して大変な負債を負
ってしまった」
創 :「そしてそれまで取引きのあった銀行からも見放され、すべての家財道具にいたるまで
借金のかたに取られてしまったって言っていた。ところで静香さんのお祖さん、お祖母
さんは?」
静香:「伯母さんや母の話だと、その時の無理がたたって相次いで亡くなったそうです。
だから、私は祖父や祖母に会ったことがないんです」
静香にとって、お互いの祖父母の話が創の口から出たことは思ってもみないことだった。
目に見えない何か大きな黒い影のようなものが背後でうごめいているようで、寒々しさえ
覚えた。
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遠山家のお墓の掃除を手伝ってくれている創を眺めながら、静香は父に何と紹介しようか
と考えていた。「こちら、大学の先輩の芳野創さん。お付き合いさせていただいている人なの。若しかしたら、父さんが探していた人の息子さんかもしれないの。だから心配しないで。見守っていてね」
そして創も何時になく緊張した面持ちで、こんな時は何と挨拶したらいいのかと考えていた。「初めまして、芳野創です。雑誌社のカメラマンをしています。静香さんのこと大切に思っています。頼りないかもしれませんが、静香さんの側にいて彼女のことを守ってあげたいです。
ですから、お嬢さんとお付き合いさせてください」
墓前に手を合わすふたりの姿は何時になく真剣で、時折交し合う瞳にはお互いを思いやる
優しさと真摯さが感じられた。

創 :「ありがとう。君のお父さんにすべて見通されているみたいで、とても緊張してしまって、
どうしていいかわからないくらいだ。大切に育てたこんなに可愛いお嬢さんとお付き合
いさせてもらっているのだから当然だけど」
創 :「ところでお墓を誉めるのも変だけど、遠山家のお墓って遠くの山が一望できて眺めの
いい所にあるんだね。ここにお墓を買われたのはお母さん?」
静香:「いいえ、実は父なんです。父より兄の方が先に亡くなっているので。私も、父にどう
して浄妙寺にお墓を買ったのと聞いたことがあったんです。そしたら『作兄さんは海
で溺れて亡くなったので、海が怖いかもしれない。だから海からは遠くって見晴らし
のいい、お日様が1日中当たっている寂しくない所という条件で探した』って言って
いました」

4歳 昭和五十五年七月二日没』と刻まれていた。
創 :「そうだったのか。そういう意味では、ここはお父さんが考えた条件にぴったりな所だね」
ほんの数日前に千尋がそうしたように、創も静香の話しに耳を傾けながら墓碑版の文字を書き写した。やがてふたりは石釜ガーデンテラスへの続く坂道をゆっくりと上がっていった。
レストランは休日の昼時のせいか、とても混んでいた。しばらくして、幸運なことに庭園に面
したテラス席が空いた。

創 :「君に見て欲しいものって、これなんだけど」
静香:「これは・・・相関図」
創 :「そう、君のお父さんと僕の父がかつて同じ大学の同僚で、『創と作』というペンネーム
を使って合同でシナリオを書いていたと仮定して、両家の相関図を作ってみたんだ。
これをもとにして、お互いに気付いたことをまとめてみようかと思って」
そう言いながら、何も書かれていない別の紙を静香にと手渡した。
静香:「さすがだわ。私はこんなこと思いつきもしませんでした」

・遠山家の両親、芳野家の両親とも宮城県出身
・誠さん・響子さん・千尋さんは全員W大学の第一文学部の卒業生
・大学時代に『創』と『作』というペンネームを使って合同でシナリオを書いていた
(ただし、作が芳野千尋であるか確認が取れていない)
・『創』である遠山氏はドラマ作家へ
・かつての同僚『作』という男性は商社へ就職(芳野千尋も商社勤務)
・結婚して最初に男の子が生まれたら『創』また下に男の子が生まれたら『作』と
名付けようと約束(芳野千尋は双子に『創と作』という名前を付けているが、遠山誠
は長男に『作』次男に『潤』と付けている)
・遠山家の長男の『作』は4歳で死亡。芳野家の双子のうち『作』はニューヨークで誘拐
され行方不明(偶然に同じ名前。生きていれば遠山作が26歳、芳野作は25歳)
まだ他にもあるかもしれないけれど、これくらいかな」
創 :「腑に落ちないことを話し合ってみようか。最初の子供が生まれた年齢から推定して、
遠山誠さん響子さんは22歳か23歳。在学中から付き合っていて、卒業した年か
あくる年に親になっている。僕が卒業した大学でも同期生同士で恋愛して結婚した
カップルはいるけど、子供が生まれるというのに男性に定職がないケースは珍しい。
静香さんはどう思う?」
静香:「私も慎重な父らしくないと思って、数日前に母に聞いてみたのですけれど、気分
を害したみたいではぐらかされてしまいました」

たら、見合い結婚だって言っていた。入社一年目の新入社員がニューヨーク赴任の
チャンスをつかむために見合いまでして結婚するなんて。父は僕から見てもやり手
でハンサムだし、そんなに急いで結婚する必要があったのかなとさえ、思っているん
だけど」
静香:「芳野さんのお祖父さん、お祖母さんってどんな方ですか?」
創 :「祖父はとてもエリート意識の高い銀行マンだったって、父がよく言っていた。だから、
僕がカメラマンになるって聞いたら、カメラだって。そんなどうしようもないもので食
べていかれるのかって、父はすごく怒られたそうなんだ。だから、僕も祖父のことは
好きでないし、尊敬もしていない」
創 :「それに、母から聞いた静香さんのお母さんの話だと静香さんのお父さん。つまり静香
さんのお母さんが大学4年生の時に、お祖父さんが事業に失敗して大変な負債を負
ってしまった」
創 :「そしてそれまで取引きのあった銀行からも見放され、すべての家財道具にいたるまで
借金のかたに取られてしまったって言っていた。ところで静香さんのお祖さん、お祖母
さんは?」
静香:「伯母さんや母の話だと、その時の無理がたたって相次いで亡くなったそうです。
だから、私は祖父や祖母に会ったことがないんです」
静香にとって、お互いの祖父母の話が創の口から出たことは思ってもみないことだった。
目に見えない何か大きな黒い影のようなものが背後でうごめいているようで、寒々しさえ
覚えた。

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by jsby
| 2007-02-27 19:41
| 追憶 冬物語